第8章 他人×奇術師×実は犬?
やっとの思いでその姿を見つけた私は酷く焦っていた。
まさか、トランプを手にしたヒソカと棒切れを持ったレオリオさんが対峙しているなんて予想もしてなくて。
私は気が付くと、嫌な音を立てる心臓も額から流れ落ちる汗も無視して叫んでいた。
『レオリオさん!』
2人の視線がこちらに向き、レオリオさんの顔だけが驚きの色に染まる。
『ナナっ!?なんでここに!!』
レオリオさんの元まで一気に駆け抜けた私は、彼を守るようにヒソカの前に立ち塞がる。
「おや、……可愛いお客さんだね♥」
言われ慣れていないその褒め言葉も、今は少しも嬉しくない。
「君には少し興味があったんだ♦ちょっと話さないかい?」
そう言ってにこやかに笑ったヒソカは、徐々にこちらへと近付いて来る。
どうやったのかはわからないけれど、さっきまで手に持っていたトランプは手品のように消え失せていた。
レオリオさんを守りながら戦うなんて、とてもじゃないが今の私には無理だ。
ここは逃げるべきだと判断した私は、後ろに居るレオリオさんの手を取ろうとしたはずだった。
けれど、私の身体はぴくりとも動かない。
もう一度身体を動かそうとしてみるけれど、やはり同じことだった。
まるで、見えない何かが私の身体を地面に縫い付けているかのような感覚。
そこまで考えた私は、何か重要なことを忘れているのに気付く。
(ーーーーーー…念)
嫌な予感はこういう時程当たってしまうものなのだ。
目にオーラを集中させると、ヒソカの掌から出るオーラが私の体に纏わりついているのが見えた。
そして空中に浮かび上がっている、念で書かれたメッセージも。
[仲間を殺されたくはないだろう?大人しく僕の言うことに従いなよ♥]
ご丁寧なことに語尾にハートマークまで付けてあるそれに、内心舌打ちをする。
そして自分の迂闊さに思わず溜息が漏れた。
今更後悔しても遅い。
一歩一歩、ヒソカはこちらに向かって来ている。
『逃げろっ、ナナ!!』
私の背後でレオリオさんがそう叫んでいるけれど、今の私にそれは出来ないのだ。
「クックック…♥」
楽しそうに笑っているヒソカに苛立っていると、どこからか飛んで来た釣竿の浮がすぐそこまで迫って来ていたやつの額に直撃した。
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