第8章 他人×奇術師×実は犬?
『いってぇ――っ!』
僅かに聞き取れたその声が、とても聞き覚えのあるものに思えた。
『ゴン!』
キルアくんの声なんてまるで聞こえてないかのように、一目散に来た道を引き返して行くゴン。
その行動は、さっき聞こえた悲鳴が誰のものであるかを示していた。
私もゴンの後を追おうと、足の向きを変えて駆け出そうとしたその時だった。
『おいっ!!』
キルアくんが私の腕を掴んできたのは。
『お前まで行ってどうすんだよっ!ヒソカ相手じゃいくらお前だって…』
その言葉からは、心配してくれているんだろうなと言うことが何となく伝わって来た。
もしかしたらさっきの他人だなんて言葉は嘘なんじゃないかって。
そう思えるくらいに、キルアくんの顔は苦しげに歪んでいた。
(でも……)
私は、レオリオさん達を助けに行きたいと思ってしまったんだ。
『助けに行かずに後悔するより……、助けに行って後悔する方がマシだから!!』
私はキルアくんの手を振り払って走り出した。
後ろからキルアくんの声が聞こえた気がしたけれど、私が足を止めることはなかった。
(私って……、こんなに他人思いな人間だったかな?)
しばらく走っていると、先に駆け出して行ったゴンの姿が視界に入った。
『ゴンっ!!』
私が名前を呼ぶと、ゴンは一度だけこちらに顔を向けて視線を前に戻す。
逆走している私達を変なものでも見るような目で見てくる受験者達が煩わしくて、小さく舌打ちしてしまう。
その中にレオリオさんとクラピカさんの姿を探すけれど、見当たらなかった。
いつまで経っても2人の姿が見つからないことに焦った私は、今までよりもスピードを上げて走り出す。
すぐに見えなくなってしまったゴンには、心の中で謝っておいた。
時折レオリオさん達の名前を呼びながら、ずっと考えていた。
こんなことをしてもし二次試験会場に辿り着けなかったら、私はどうするつもりなんだろう。
ハンターの資格を取ることよりも、キルアくん曰く他人であるレオリオさん達を優先している自分に驚いていた。
けれどそれ以上に、自分にニール兄さん以外の大切な人が出来たことに嬉しさを覚えた。
そして、同時に気付いてしまったのだ。
私がアイツに手を出したら、ゴン達にも危険が及ぶかもしれないということに。
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