第8章 他人×奇術師×実は犬?
ゴンがはぐれてしまったレオリオさん達に前に来るよう叫ぶ。
少し後ろの方からそれに答える声が聞こえ、小さく安堵の溜息を吐いた。
まだレオリオさんと話をしているゴンを横目で見ていると、不意にキルアくんと目が合った。
じっと私を見つめたまま何も言わないキルアくんを不思議に思っていると、彼は意を決したように口を開いた。
「「うわぁぁ――っ!!」」
けれど、彼の口から何か言葉が発せられることはなかった。
聞こえてきた悲鳴に、私は反射的に顔を後ろに向けた。
さっきよりもいくらか濃くなった霧のせいで、後ろの様子は殆どわからない。
『……騙されたのかな?』
『たぶんな…』
私が他人事のように呟くと、キルアくんもまた同じような温度で言った。
レオリオさん達は大丈夫だろかと、私が後ろを気にしている間にキルアくんは視線を前に向けてしまっていた。
黙ったままの彼に話の続きをする気がなさそうなのはわかっていたけれど、気になった私は恐る恐る口を開く。
『さっきの話』
何だったの?と口にする暇もなく、キルアくんに何でもないと返されてしまう。
少しもやもやとした感覚を覚えたけれど、本人の言いたくないことを無理に聞くようなことはしたくない。
それでもやっぱり気にはなってしまって、私はしばらく真っ直ぐに前を見て足を動かしているキルアくんを見つめていた。
すると、ちらちらと後ろを伺いながら走っているゴンも自然と目に入るわけで…
『ゴン?』
小さく声をかけてみるが、私の声が聞こえていないのか無視されているのか、ゴンはなんの反応も返してくれない。
そのことに少しショックを受けていると、キルアくんが少し大きめの声でゴンを呼んだ。
やっとこちらに顔を向けてくれたゴンはどこか心配そうな顔をしている。
きっと、レオリオさん達のことが気にかかっているのだ。
私にも何となくその気持ちがわかる。
『他人の心配してる場合かよ』
だからこそ、彼の冷めた物言いが胸に刺さった。
『この霧、はぐれたらアウトだぜ』
確かにその通りだとも思う。
けれどその言葉を少し寂しく感じてしまう自分がいた。
私は、キルアくんともそれなりに打ち解けられたと思っていたのだ。
だから彼に“他人”と言われたことが悲しかったのだろうと。
この時の私はそう思っていた。
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