第8章 他人×奇術師×実は犬?
地面に足を付ける度に泥が跳ねて少し気分が沈む。
やっぱり汚れても気にならない靴で来るべきだったかもしれない。
かなり汚れてしまったお気に入りのブーツに目をやると、思わずため息が漏れた。
私達は今サトツさんの後を追っているはずだけれど、何分視界が悪い。
前を走る受験者達の背を追いかけているだけで、その先にサトツさんが居るかまではわからない。
少しペースを上げて、サトツさんの姿が確認出来る位置にいた方がいいかもしれない。
それに、湿原に入った辺りからずっとあの男の不気味な殺気が肌に纒わり付いているのも気になる。
『ゴン、ナナ、もっと前に行こう』
静かに言い放ったキルアくんに小さく頷くと、ゴンも同じように頷いて見せた。
『うん、試験官を見失うと大変だもんね』
その言葉でゴンはこの殺気に気付いてないのだとわかる。
確かにゴンの言うことも正しいけれど、それよりも……
『そんなことより、早いとこヒソカから離れた方がいい』
私の心を読んだかのように隣を走るキルアくんが言った。
ヒソカ。それがあの男の名前だと言うことはすぐに理解出来た。
それと同時に、キルアくんがこの殺気に気付いていることに驚かされる。
『アイツ、人を殺したくてウズウズしてるから……この霧に乗じてかなり殺るよ』
キルアくんの言葉に驚くゴンを見ていると、やっぱり彼は普通の子供とはどこか違うのだと思わざる負えない。
『なんでそんなことわかるの?って顔してるね』
キルアくんは口角を上げて隣を走るゴンに視線を向けていた。
『俺もアイツと同類だから、匂いでわかるんだ』
自分のことをあの男と同類だと言うキルアくん。
その横顔がどこか寂しげに見えたのは私の気のせいだろうか。
『同類…?アイツと??……そんな風には感じないけど』
同類と言うのがどういう意味を持つのかはわからないけれど、私もそんな風には思えなかった。
『それは俺があの猿みたいに上手く化けて、猫を被ってるからだよ……ま、そのうちわかるさ』
『ふぅ~ん』
ゴンが鼻をひくつかせながら言うから、私は思わず苦笑いで口を開いた。
『ゴン、キルアくんの言ってた匂いってその匂いじゃないよ…』
『ぇ?そうなの?』
ゴンの天然過ぎるその反応にまた少し笑ってしまう。
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