第6章 ゲーム×涙×変化
俺の肩に顔を押しつけたまま鼻を啜っているナナの背中を、行き場のなくなった右手で小さく擦る。
こいつらを裏切っていた俺がナナに触れていいのか、正直わからない。
けれど目の前で泣いてるナナを放っておけなかった。
そして罪悪感のようなものを感じながら、自分の知っていることを独り言のように呟く。
『……癒し杉なんて木はない』
ナナを抱き締めるような形で地面に座り込んでいる俺には、一瞬でその身体が強張ったのがわかった。
そっとナナの横顔を盗み見ると、案の定その顔は怒りに染まっていた。
その怒りの矛先はトンパに向けられているのだろうけど俺にはそうは思えなくて、思わずナナから目を逸らす。
顔は見ていないけれど、ゴン達もたぶん同じような顔をしているはずだ。
『こいつは昔から暗殺者がよく使う、惑わし杉の樹液だ』
昔親父に教えられた知識を掻い摘んで喋ると、自分がこいつらと違うことを改めて思い知らせる。
『相手の一番触れられたくない過去の幻を見せて精神を破壊するんだ』
壁を見つめたまま、まるで全てを知っていたとでも言うようにスラスラと説明する俺の言葉を聞いて、こいつらはどう思ったんだろう。
怒って俺を殴るのか、それとも幻滅されてもう言葉も交わしたくないとでも言われるのか。
どちらにせよ、嫌われてしまうことは間違いないと思っていた。
『詳しいんだね…』
だからこそゴンの俺を褒める様な物言いが腑に落ちない。
なんで俺を責めないのかがわからず、表情には出さずとも困惑していた。
『じゃあ、トンパは……』
そこまで呟いて黙り込んだクラピカに、俺はクラピカが言おうとしていたであろう言葉を淡々と口にする。
『お前たちを引っかけたんだ』
悔しげな声を上げるクラピカと、黙ったままのゴンとナナ。
まだ誰も、俺を責めるような言葉を一言も言ってこない。
(俺も同罪のはずだ。あのおっさんの嘘を知ってて黙ってたんだから……)
何を言われてもおかしくないと身構えていると
《そんなの俺には関係ない。これはゲームだろ?》
俺の中でまた“アイツ”が言った。
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