第6章 ゲーム×涙×変化
夢中で足を動かしていると少し先にゴン達の姿が見えた。
『……、………ッ!…』
地面に座り込んで何か叫んでいるゴンの声が、だんだんはっきりと聞こえてくる。
『ナナ!クラピカッ!!』
ゴンが必死になって叫んでいたのは、ゴンの傍で倒れているクラピカとナナの名前だった。
2人が惑わし杉の匂いにやられたことは明白だ。
小さく舌打ちをしていたら、車輪と地面の擦れる音に顔を上げただろうゴンと目が合った。
その目は濁ってもいなければ、正気を失ってもいない。
俺みたいに訓練されているはずのないゴンが正気を保てていることに驚いた。
けど、今の俺にはそんなのに構ってる暇なんてない。
俺はスケボーを踏み台にして、錯乱して暴れているクラピカの顔に軽く蹴りを入れる。
『うあぁっ!』
足元から聞こえた鈍い音と地面に倒れていくクラピカは無視して、ぴくりとも動かないナナのもとへと走った。
これだけ周りが煩くても意識を取り戻さないナナに、俺は焦り始めていた。
ナナの隣に座り込んでその肩を少し強めに揺する。
『おい!いい加減に!?……っ』
うつ伏せに倒れているナナの顔を見ようとその身体をひっくり返した俺は言葉を失う。
そして、自分の心臓が何かに握り潰されるように軋んだ気がした。
顔を歪めて苦むナナの瞳からたくさんの涙が零れ落ちていく。
それを乱暴に拭って身体を丸める意識のないナナ。
『っ、……おかぁ、さ…』
魘されながらうわ言のように呟くナナの姿を見ていたら、胸の奥に小さな痛みが走った。
(俺の、せいだ……)
ナナの肩を掴んだままの俺の掌が小さく震える。
《いいや、ただの勘違いだ》
頭の中に直接響いてきたのは、どこか聞き覚えのある冷え切った声だった。
背筋が凍りつき、身体の奥で心臓が嫌な音を立て始める。
《だって俺は、そんなこと思うような奴じゃないだろ?》
頭の中で馬鹿にするように嗤っている、俺の姿をした“アイツ”。
俺が自分で自分の奥の方へ追いやって、閉じ込めていたはずの“アイツ”が静かにそう言った。
*