第6章 ゲーム×涙×変化
「な、何をバカなっ!」
そのわかり易い反応にさらに嗤ってしまいそうになるが、なんとか堪える。
こんなやつに騙されるなんてあいつらはどうかしている、そう思った。
そして同時に、最後までこいつのことを疑っていたナナのことも思い出させた。
最後に見たあいつの顔はどこか不安そうで、俺はその顔を見ていたくないと思ったんだ。
まぁなんでそんなことを思ったかも、わかりはしないんだけど。
またあいつのことを考え始めている自分に溜息を吐き、本来の目的を果たす為に薄く笑う。
『いいこと教えてやるよ』
おっさんの恐怖心が増すようにゆっくりと間合いを詰めながら言ってやる。
『薄汚い手を使う奴は、いつか必ず薄汚い死に方をするってさ』
額に冷汗を浮かべながら後退りするおっさんは見ていて面白かった。
『嘘じゃないぜ?なんなら試してみようか?』
さらに追い詰めるように軽く殺気を出しながら詰め寄る。
『今ーーー…、ここで』
そこまで言い切ると、顔を引き攣らせながら後ろに下がって行ったおっさんの背が壁にぶち当たった。
「なっ!?」
自分の後ろにある壁の存在に今の今まで気付かなかったのか、壁に当たった瞬間のおっさんの顔はすんげぇマヌケ面だった。
それこそ吹き出さなかった俺を褒めて欲しいと思うくらいには酷かった。
俺は退路を失って慌てだしたおっさんを無視して脇に抱えていたスケボーを地面に倒す。
お前にもう興味はねぇよって意味を込めておっさんを一瞬だけ睨んで先を急いだ。
分岐点に辿り着いた俺は迷うことなく甘い匂いのする方の道に入る。
俺の思っていた通り、その道には壁を覆い隠すようにして“惑わし杉”が張り付いていた。
甘ったるい胸やけのしそうな匂いがやけに鼻について、少し嫌な予感がする。
普通の人間がこの匂いに耐えられるとは思えない。
誰にだって思い出したくない過去の一つや二つはある。
(きっとあいつにだって、それはあるはずだ…)
その当たらなくていい予感が当たってしまったのは、ほんの数秒後のことだった。
『いやぁぁぁっ!!』
聞こえたその悲鳴が誰のものかなんてすぐに見当がついて、俺は考えるよりも先に全力で地面を蹴っていた。
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