第5章 暗闇×過去×甘い罠
『トンパさん!どうしたらいいかな…』
レオリオの傍に立って浮かない顔をしているトンパに、ゴンがそう問い掛ける。
けれど私にはその表情が態とらしく見えて、まだトンパを信じきれないでいた。
「う〜~ん……」
腕を組んで知恵を絞り出そうとしているトンパをじっと見つめていると、彼は閃いたとでも言うように目を見開く。
「あれだ…あの匂いだ!」
笑顔でそう言い放ったトンパにみんな訳がわからないと言った表情を浮かべる。
もちろん私も何のことかわからず、ただ首を傾げていた。
「右の穴からしてた甘い匂いだよ!!おいッ、体力が回復出来るかもしれんぞ!」
『…なんだとっ?!』
レオリオさんが信じられないって顔で聞き返すのを見ながら、私もそんな夢のような話があるはずがないと思っていた。
「どこかで嗅いだことのある匂いだとは思っていたんだが、あれは“癒し杉”の樹液に間違いない!」
『『イヤシスギ…?』』
聞き覚えのない言葉に思わず聞き返すと、トンパはひとつ頷いて話し始めた。
「ハンターが森でへばった時に使う樹液でな。その匂いを嗅いでいると、一時的に体力を回復出来るんだ」
聞いたことのない植物だけれど、本当にそんなものがあるのだろうか。
トンパの言うことが本当なら、レオリオさんの体力を回復出来る。
(だけどーーーーーー…)
『でも、それがもし罠だったら?』
ぽつりと呟くと、みんなの視線が私に集中するのがわかった。
少し慎重になり過ぎかもしれない。
だけどハンター試験には何があるか分からないし、トンパが嘘を吐いてる可能性もないとは言い切れないはずだ。
「その可能性もある。だが、このまま置き去りにはしていけないんだろう?一か八かの賭けさ!」
明るく言って退けるトンパにやはりどこか不自然さを拭い切れず、拳を強く握りしめる。
『だけどっ! 「なぁ~に、伊達に35回出場してきたわけじゃない。心配するな!!」
続きの言葉はレオリオの腕を自分の肩にかけながら言ったトンパの声に掻き消された。
この時、もっとちゃんと引き止めていれば良かった。
そうすれば自分の弱さを知られることも、誰かが苦しむこともなかったのだから。
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