第5章 暗闇×過去×甘い罠
『大丈夫っ!?』
通路に受験者達の荒い息遣いと地面を蹴る音だけが響く中、ゴンが突然後ろに顔を向けて叫んだ。
その視線を辿って行くと一際汗を掻きながら走っているレオリオさんに行き着き、ふと目が合ったかと思うと力ない笑顔を向けられる。
それが余計に痛々しくて、どうにかしてあげたいのに何も出来ない自分がいやになる。
レオリオさんが心配で様子を伺いながら走っていると、持っていた鞄を地面に落として立ち止まるレオリオさんが見えた。
『レオリオさん!』
私は気が付くとレオリオさんのもとへと駆け出していて、隣でゴンも同じように走り出すのが見えたその時、誰かに肩を掴まれる。
『おいっ!!』
足を動かすのを止めて、私を引き止めた声の主に顔だけを向ける。
その間に私達の後ろを走っていた受験者達が次々と私達を追い越して行く。
『お前らバカか?そいつはもう終わりだ』
目を細めて躊躇うことなく斬り捨てるように言う銀髪の男の子。
その目は今まで見た中で一番冷たくて、そしてどこか寂しげに見えた。
『そんなことない!!』
隣に居たゴンが通路全体に響き渡りそうな声で叫ぶ。
『それに、放っておけないよ……友達だからっ!』
私もゴンと同じ気持ちだと言うように小さく頷くと、銀髪の男の子が顔を歪めて言った。
『トモダチ?』
私がレオリオさんの友達かどうかはわからない。
けれど放っておけない、助けたいと思ったのは本当だ。
『そう、友達!』
当然だとでも言うようにきっぱりと言い切るゴン。
『っ、ふざ…けんなよっ!』
その直後に聞こえた、苦しそうなレオリオさんの声に思わず後ろに振り返ると
『絶対ハンターになったるんじゃくそったらあぁー!!』
レオリオさんがものすごい勢いでこちらに走ってくるのが見えた。
けれど限界に近いレオリオさんはすぐに立ち止まって、膝に手をついて荒い息を吐いた。
「おいっ、無理すんな!」
その近くに居たトンパがレオリオさんの肩に手を乗せて言うと、彼はその手を振り払った。
『っうるせぇー……。お、めぇら…ぐずぐずしてっと、置いてくぞ…』
途切れ途切れで吐き出された言葉に強い意志を感じて、彼にも何か抱えているものがあるのかなと、なんとなくそう思った。
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