第3章 決意×出発×試験開始
お姉さんの後を追って黙々と歩いて行くと、どこにでもある普通の開き戸の前に着いた。
「こちらの受験札を胸元に付けて、お部屋にお入り下さい」
扉の横に立ったお姉さんが私に差し出したのは、「232」と書かれた丸いプレート。
どうせなら「222」の方が良かったな、なんてどうでもいいことを考えながらそれに手を伸ばす。
これを付ければ私もハンター試験受験者の一員。
緊張なんてしないだろうと思っていたけど、意外と緊張してるみたいだ。
受け取った受験札を少し震える指で左胸辺りに付け、ドアノブに手を置いてから一度深く息を吸う。
いつもより早く打つ鼓動を聞きながら、扉を開けて部屋の中に入った。
さっき注文したステーキ定食が準備されているのかなとも思っていたけれど、部屋の中には何もない。
壁に囲まれた小さな部屋にあるのは、私が今入って来た扉とその反対側ある大きな扉だけ。
「では、頑張って下さいね」
突然聞こえたその声に振り返ると、にっこり笑うお姉さんを最後に扉が閉められ、次の瞬間視界がぐらりと揺れた。
突然のことに心臓が嫌な音を立て始め、掌に汗が滲む。
何が起きてもいいように全身にオーラを纏わせていたが、特に変わったことは起きていない。
上へ上へと上がって行き天井に隠れて見えなくなってしまう壁紙。
どんどんその数を増やしていく大きな扉の上に表示されている数字。
徐々に落ち着きを取り戻した私の身体が感じたのは、眩暈にも似たあの独特の浮遊感だった。
そして初めて、この部屋自体がエレベーターだったのだと頭が理解する。
柄にもなく焦ってしまったけれど、今の状況がわかってしまえばどうと言うこともない。
警戒を解いた私は溜息をひとつ吐いてオーラをしまった。
近くの壁に背を預けて、ポケットに忍ばせていたチョコレートを取り出して口の中に放り込む。
口の中に広がる甘さが少しでも緊張を解してくれることを祈って、少しだけ目を閉じる。
しばらくすると軽快な音が鳴り、エレベーターもその動きを止めた。
扉がゆっくりと開き、その先に居た人達の視線がこちらに集まるのがわかる。
その視線が私を馬鹿にするものへと変わるのを感じながら、私は薄暗い試験会場に足を踏み入れた。
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