第3章 決意×出発×試験開始
視界が暗いせいか空気が少し重苦しいように感じるけど、怯みはしない。
入口から少し離れた所に空いたスペースを見つけた私はそこを目指して歩く。
耳に入って来るのは、女だとか、場違いだとか、そんな言葉ばかり。
好き勝手言ってる奴らに少し怒りを覚えたけれど、それを声に出してややこしくなるのも面倒だ。
お目当ての壁に辿り着いた私は、小さく溜息を吐いてそこに寄り掛かる。
当たり前だけど、知り合いなんて1人も居ないのだから話す相手も居なければこれと言ってすることもない。
そのまま壁に凭れて足をぶらぶらさせていると、私の目の前で太ったおじさんが立ち止まった。
「やぁ、君新人だろ?何かわからないことがあったらオレに聞くといい」
その人は人の良さそうな笑みには程遠い、胡散臭そうな笑みを浮かべて言った。
「オレはトンパだ!よろしくな」
こちら差し出された右手に、私は自分の顔が引き攣るのを感じていた。
人を見た目で判断するべきではないと思うが、その人には清潔感と言うものが感じられず、正直なことを言うと握手は遠慮したい。
『私はナナ=ナシェリー。よろしくね、トンパさん!』
それでも無邪気な笑みを張り付けてトンパの手を取った私は、相当偉いと思う。
まぁそれと同時にものすごく手を洗いたい衝動に駆られたのも事実なのだけど。
ぱっと手を離した私は別れ際の挨拶もそこそこに、まだ何か言いたそうにしているトンパを無視してその場を離れる。
訳のわからない人間(特に男)には関わらないようニール兄さんにも言われているし、これで良かったのだと自分を納得させてまた壁に凭れた。
これ以上トンパみたいな人に話しかけられるのはごめんだと、周りの人達が自分を見ていないのを確認し絶をした。
試験はまだ始まらないようで、襲ってきた睡魔に逆らうことなく目を軽く閉じる。
ジリリリリリリッ―――――
けたたましく鳴り響く音に微睡んでいた意識が浮上する。
大きく欠伸をして身体をぐっと伸ばすと、頭上に人の気配を感じた。
「只今をもって、受付時間を終了致します」
宙に浮いていた男の人は手元の時計を止め、ゆっくりと床に降り立ってこう続けた。
「ではこれより、ハンター試験を開始致します」
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