第3章 決意×出発×試験開始
私はあれからメモにあった住所を目指して歩き回り、ひとつの建物に辿り着いていた。
しかしそこはどう見てもハンター試験が行われるような場所ではなく、私はもう一度メモの住所と入口に貼ってある広告隅の住所とを見比べる。
(ツバシ町、2-5-10……)
何度見ても、メモにある住所は目の前の定食屋のもので間違いない。
今までニール兄さんのくれた知識や情報が間違っていたことはないが、今回ばかりはどうしても信じられなかった。
このどこにでもありそうな定食屋で、一体どんな試験が行われると言うのか。
小さく溜息を吐いた私はゆっくりと店の扉を押した。
店の中に入ると、そこはたくさんの音で溢れていた。
厨房から聞こえてくる油の弾ける音、金属のぶつかり合う音、注文を取る店員の声と客の笑い声。
食欲をそそるいい匂いに、そう言えば朝から何も食べていなかったと今更ながら気付かされる。
「いらっしゃいませ~!」
新しい客がやって来たことに気付いたお姉さんが、カウンターを拭く手を止めて笑顔で言った。
それに続くたくさんのいらっしゃいませ。
どこにでもある普通の飲食店と同じ対応に、ますます不安になりながらふらふらとカウンターに近づく。
「いらっしゃい!ご注文は?」
カウンターの奥でフライパンを振っているおじさんにそう聞かれ、やっと気が付いた。
この店の住所と一緒にメモに書かれていた、訳のわからない言葉の意味に。
これが合言葉だったのかと、私はメモにある言葉をそのまま読み上げる。
『ステーキ定食、弱火でじっくり』
それを聞いたおじさんは片眉をぴくりと動かし、にやりと笑って言った。
「へいよっ!…頑張りな、嬢ちゃん」
おじさんは一番近くにいたお姉さんに手招きし、フライパンの中に胡椒を削り入れる。
私の目の前までやって来たお姉さんは、おじさんと視線だけを交わしてこちらに目を向けた。
「こちらです」
真剣な表情で店の奥へと歩き出したお姉さんの後を追って、私もゆっくりと歩き出した。
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