第3章 決意×出発×試験開始
だけど、私が相手にしようとしてるのはあの暗殺一家ゾルディック家の人間だ。
もしかしたらニール兄さんに会うこともこの場所に来ることも、もう二度とないのかもしれない。
かもしれないじゃなくて、その可能性の方が高いこともなんとなく理解している。
だからなのかはわからない。
だけどこの場所を、目の前にいる大切な人を、この目に焼き付けようと必死になっている自分がいて焦った。
こんなの私がアイツを殺せないと思っている証拠でしかない。
私がアイツを殺すんだ。
そして、生きてこの場所に戻ってくるのだと、自分で自分にそう言い聞かせる。
両親の身体を赤く染める滴、独特な錆びた鉄の匂い、光の宿っていない瞳、両親の血に塗れたアイツの掌―――…。
思い出したくもないその光景はずっと私の胸の中にあって、今でも時々夢に見る。
けれどこの光景は、絶対に忘れてはいけない。
忘れてしまったら、きっと私はーーー…
「……ナナ?」
ニール兄さんの声で我に帰った私は、今の自分の表情がどんなものかが容易に想像出来て慌てて笑顔を作る。
『っ、なんですか?』
「……ま、そうゆうことにしといてやるよ」
訝しげな顔で私を見つめていたニール兄さんは、呆れたように笑って言った。
「このメモ、持っていくか?」
ゆっくりと私の前まで歩いてきたニール兄さんに差し出されたのは二つに折り畳まれた小さな紙。
「これがあれば、試験会場なんてあっとゆう間に着くぜ…?」
ニヤニヤ笑いながらメモを揺らしてみせるニール兄さんはまるで悪徳商売でもしている人かのようだ。
こう言う時は絶対に何らかの条件を付けてくるのがニール兄さんだ。
『……条件はなんですか?』
とてもおいしい話ではあるけれど、条件によってはメモを受け取るかどうか考えなければならない。
少しの間を置いて満面の笑みを浮かべたニール兄さんは言った。
「ハンター試験が終わったら、俺に顔見せに来ること!」
一瞬唖然としていた自分の表情が、自然と緩んでいくのがわかる。
『……わかりましたよ、ニール兄さん…』
私はニール兄さんの手からメモを奪い、試験会場までの道のりを歩き出した。
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