第11章 探検×休息?×夢の中
『深入りしない方がいい』
決して大きくはない俺の声が、この時はやけに響いたような気がした。
『そいつは、俺に用があるんだ』
その言葉を聞いていた女が、静まり返ったその場の空気を壊すように勢い良く立ち上がる。
「風の噂で聞いたの。今度のハンター試験を、ゾルディック家の者が受けるらしいって……」
そんなことを噂の種にするとか暇な奴もいるもんだな…、なんて考えながら、面倒ではあるけれど適当に女の相手をしてやらないと。
『大当たり』
きっと、この女は運がいい。
『俺、ゾルディック家の人間だよ。間違いなくね』
憎い相手を探し当てて、仇を討つことが出来るんだから。
まぁ、結果がどうとかはまた別の話になるけど。
腰の得物に手を掛ける女に、薄らと笑って見せると、女は息を呑んで動きを止めた。
『それで仇を討ちたくてハンター試験に乗り込んで来た、ってわけか』
「そうよ」
レオリオの言葉に即答する女が、どれだけ思い違いをしているか。
『覚えておいた方がいいよ』
教えてやらないといけないと思った。
『殺し屋を差し向けられるような人間は、人に恨みを買う人間だってこと』
「っ、許さないっ!!」
俺が言ったことの意味を理解した女は怒りを露わにして、邪魔なテーブルを引っ繰り返した。
乗っていたティーカップは派手な音を立てて割れ、女がナイフを振り翳して俺を睨み付ける。
クラピカがそれを取り押さえようとするが、女が止まるはずもない。
一直線にこちらに向かって来る刃を避けるのなんて余裕だった。
俺の居なくなったソファにナイフを突き立てている女の背後で棒立ちしていると、また性懲りもなく俺に向かって来るから呆れてしまう。
それでも多少は距離を取って置こうと、後ろに飛び退けたその時。
「そこまで!!」
どこからか現われた会長のじいさんが、文字通り刃を掴んで女の動きを止め、俺達に割って入った。
女の悔しそうな表情を見る限り、掴まれているナイフを奪い返そうにも出来ないらしい。
マジでどんなじじいだよ、この人。
『止めるなよ。おせっかいなじいさんだな』
「ふむ…確かに、受験者同士のいざこざは、本来試験官の関知するところではない…」
そう言ってじいさんがナイフから手を放しても、女はもう襲い掛かって来なかった。
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