第3章 私の本丸だ
「俺たち、結構お姉さんのこと気に入ってるんですよ?」
「……君の霊気は心地よい」
突然の行動に足を止めて目をしばたかせていると、そう言ってさらに迫っこようとする2人。
「何言ってんだか。 2人ともかっこいい顔してんだから、こんなおばさんじゃなくてもっと若い子にこういう事はしなさい!!」
「じゃあ、お姉さんいくつなの?」
「28歳」
「……俺たちがこの世にみいだされて何年経っていると思っている。君のような娘を若い子と言うのだが?」
「……なら年相応の美人神様にしなさい」
私が呆れてそう言って歩き出すと2人は「むむむっ」と難しい顔をして、「手強い」だの「これからこれから」だのとお互いを励ましあっていた。
そんなやり取りをしている内に炊事場についた。
2人に片手に持てるぶんだけ持って貰い、陸奥守吉行のところを回ってもらうように頼んだ。
「お姉さんと一緒がいいです……」と頬をふくらませて駄々をこねる鯰尾くんと、「君一人だと迷うかもしれない、ついて行く」と言って強引に後を付いてこようとした骨喰くんをなんとか引き剥がし、私は打刀たちが眠る部屋に向かい歩みを進めた。
はじめに訪れたのは歌仙兼定の部屋だった。
「失礼します。 お夕飯お持ちしました。」
そう声をかけるが反応は無かった。
寝ているなら枕元にでも置いておこう。
そう思い、戸をそっと開け中を見ると部屋の中央に敷かれた1組の布団の隙間から紫色の髪が見えた。
起こさないよう部屋に入りのぞき込むと、苦しそうに眉根にシワが寄っていた。
手入れをすれば外傷を完全に消すことが出来る、しかし心の傷までは癒せない。
今自分に出来ることを考え、用意したタオルを井戸へ濡らしに庭に出る。
人生で初めて井戸の水を汲み人数分のタオルを濡らす。
すると、まだ青いモミジが汲み上げた水の中へ落ちてきた。
「……」
『歌仙兼定
風流を愛する文化名刀』
テキストに書いてあった紹介文の書き出しを頭の中で反芻して、私はモミジとタオルを手に彼の部屋へ戻った。
冷たいタオルを彼の額へ乗せると、気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
そして、手に持っていたモミジをおにぎりの皿の淵へかざった。