第9章 双黒と対黒
「要は仲間割れか、違う組織をけしかけて破滅に追いやり、その事実までも有耶無耶にしてしまうんだ」
「そんなことが……」
出来る訳、無いと反論する積もりだった。
「出来るんだよ。あの悪魔コンビなら。現にその片割れの怒りを買ったせいで芥川は死に掛けただろ?」
「!?」
何のことだ?
全く判らずにいる樋口。
「カルマ・トランジットをけしかけて芥川を襲ったのは恐らく太宰紬だ」
「なっ!?」
衝撃の事実。
「元部下だから殺す気は無かったんだろうけどな。手前等が恐怖を抱くには十分だっただろ?」
あの時、黒蜥蜴が動いてくれたから事態は最悪な展開を迎えることは無かったが……
「助かりはしましたがっ……殺す気が無いなんて状況では有りませんでしたよ!?」
樋口は目一杯反論の声をあげる。
「だろうな。だが結末は相手だけの全滅。『芥川は死なずに相手は全滅』と云う台本に一寸の狂いはなかった。」
「!」
違うか?と息を吐きながら問う。
そう。中也が云う通り、黒蜥蜴が凡て片付けた。
「しかも、こんな風に裏で手を引いたのが紬だと『確実に知っている』人間はこの世に一人として居ねェ。」
「……。」
納得せざるを得なかった。
「それほどアイツの恨みを買ったんだよ……芥川も手前もな。」
「え……?」
「太宰の糞野郎も中々の性格の悪さだが、妹はその上だ。アイツは老若男女、敵味方を問わず、相手が何であろうと何の躊躇なく捌く」
中也が溜め息を着きながら帽子を正す。
「それでも普段は兄同様、暖気な性格しているが……一つだけ、絶対にやっちゃならねーことがあんだよ。」
「……絶対にやっちゃいけないこと…」
何です?それは……と小さい声で聞く。
「兄を傷付けることだ」
はぁ、と呆れながら云う中也。
………。
「は?」
当然、樋口もポカンとしている。
「太宰に怪我させることを酷く嫌うんだよ。俺と会ったとき太宰は既にボロボロだった」
「!」
拘束したときに芥川先輩が!?
「しかし、裏切り者に手を掛けることなど当然です!」
「そうだ。だから文句は云わずに芥川に恨みを持つ相手を煽って復讐したんだろ」
「!」
あ奴等は残忍非道じゃ。
『対黒』について聞いたとき尾崎がポソリと言った言葉。
その意味を漸く理解した樋口。