第9章 双黒と対黒
「中原さん」
「あ?」
廊下で呼び止められて立ち止まる中也。
呼び止めたのは
「ああ…樋口だっけ?」
「はい。」
黒蜥蜴の上司、樋口一葉だった。
「何の用だ?」
「あの探偵社に居る『太宰』という人物についてお訊きしたくて」
貴方に聞けば判ると云われて……と俯き加減で云う樋口。
「ああ!?一番聞きたくねえ名前を俺の前で出すんじゃねえよ!誰だ!?俺に聞けって云った奴!」
「尾崎さんです」
うっ、と言葉を詰まらせる中也。
姐さんが云ったなら………仕方無い。
長い溜め息を着き、樋口を見る。
「アイツ等のことなら大抵記録に残っている。資料室から借りて読め。」
「アイツ……『等』?」
樋口は首を傾げる。
「太宰達のことを知りたいんじゃ無かったのかよ」
「あ、はい。そうですけど……『達』?」
何やら話が噛み合って居ない様だ。
「お前、太宰に会ったことは?」
「有ります。」
「どんな奴だった?」
「えっと……会って早々『心中してくれないか』と云われました。」
「………。それが太宰兄だ」
相変わらず………
呆れた顔で頭をかく中也。
然し、その手を直ぐに止める。
一寸待て。
もしかしたらアイツ…
「その場にそっくりな格好の奴が居なかったか?」
「え?あ、はい……そういえば一人。芥川先輩がその人の姿を見て驚いてましたから」
成る程。そういうことだったのか。
「それが太宰妹……太宰の双子の片割れだ。」
「!!」
漸く相違が噛み合う。
「芥川が驚いたのは二人ともアイツの元上司だからだろう」
「!」
元上司……。
「お、お二人は『双黒』と名を馳せていたと伺いましたがどちらとペアだったんです?」
「……どっちもだよ。」
「え?」
「どっちかが俺と動けば『双黒』、アイツ等二人で動けば『対黒』と呼ばれていた。」
「『対黒』……聞いたことあります。『双黒』が完全破壊を司るなら『対黒』は完全消滅を司る、と」
この二つに差異なんか無いだろう、と思う唱われ方。
「そう。『双黒』は基本的に太宰が作戦立案、俺はほぼ破壊に勤しんでいたが『対黒』は違う」
「……どう違うんです?」
「二人が作戦も立てずに好き放題に動き、自分達の手を汚さずに一掃するんだよ」
「は……?」
言っている言葉の意味が理解できない樋口。