第9章 双黒と対黒
まあ芥川が襲われた理由も判った。
しかし。
「……では私は何の恨みを買ったんです?」
一つ残る疑問。
「あ?未だ判らねーのか?」
「判りません。」
「それだけ兄に執着してるんだ。そんな兄に目の前で口説かれてる女をアイツが許すと思うか?」
「………。」
え?口説かれた?
あれが口説きに入るの?
っていうか……
ただそれだけ!?
予想外の回答。
樋口は盛大に混乱している。
勿論、言葉など出てこない。
「アイツの嫌がらせも仕返しも、以前に比べたら未だマシになったがな」
「あれでですか!?」
「あれで、だ」
あとは資料室で調べろ、と云う中也。
「まあ悪いことは云わねぇ。太宰は女に甘いが紬は違う。関わらない方が身のためだぜ」
手前ェじゃ絶対勝てねーから。
そう言うと中也は去っていった。
―――
って云われていたのに!
「君は芥川君の部下の……」
「………樋口です。」
「ああ、そうそう。樋口君!」
道端で紬とばったり遭うと云う災難に見舞われている樋口。
「芥川君の具合はどうだい?」
「…貴女に教える必要はありません。」
「ふふっ。それもそうだね」
ニッコリ笑って話す紬を睨み付ける。
「そこまで警戒していると云うことは中也辺りから何か聞いたかな?」
「!?」
読まれてる!?
「図星か。君、マフィア向いてないねえ」
「放っといて下さい!」
思わず大きい声で反論する。
「ふふふ。君が生きていると云うことは彼も生きているのだろうからまあ聞く必要は無かったか」
「……。」
会話一つから、自分が持っている凡ての情報が紬に流れているような感覚に陥る。
ピリリリ…
「おっと、電話だ。」
失礼、と云って電話に出る紬。
全然掴みどころがない上、
私も芥川先輩も恨みを買ったんじゃ無かったの!?
そんな風には微塵も思えない対応。
しかし、話を聞いて資料を読んできたせいだろう。
何故か自分からこの場を去ることが出来ないでいる樋口だった。
そんな理由で紬を眺めること約1分。
「は?もう一度言ってくれ給え」
「?」
急に険しい声音になったかと思うと
「っ!」
樋口には何も言わず、慌ててその場から走り去っていったのだった――