第39章 復職
此方をチラリともみない中也にムッとしながらも紬は話し掛ける。
「ンだよ」
「………じゃあ何でそんなに怒ってるの」
話し掛けたときとは打って変わって、ポツリと問うと漸く中也が紬の方を見た。
「怒ってはいねェよ。呆れてンだ」
「何で」
バサッと書類を置いて盛大に息を吐く。
「何で弾なんて喰らった」
「……別に。理由なんてないよ」
中也の指摘に、今度は紬が目を反らした。
「理由が無いだァ?莫迦云え。手前の異能は基本、手前を守る。にも関わらず弾を喰らったってことは『手前が意図的に異能の発動を解除したから』だろーが」
「……。」
紬はソファにゴロンと横になった。
何も返さない紬を暫く見てから、中也は再び書類と向き合い始めた。
云わなくても分かっている事だ。
聞かなくても分かっている事だ。
先刻もアッサリと認めていた通り、紬は死ぬ気でいた。
そして、中也も何時も通りにそれを阻止しただけだ。
違った点と云えば紬が「自殺」ではなく「他殺」を手段に選んだこと。
「『自殺』なら未だしも『他殺』を彼奴が赦すと思うのかよ」
中也のぼやきにも近い言葉に返事はない、ものだと思われた。
「………思わない。だから『最高の嫌がらせ』でしょ」
「……。莫迦だろ手前」
「……五月蝿い」
小さな声で云った紬に、中也は本日2度目となる呆れからの溜め息を盛大に着いたのだった。