第1章 再会
筆記試験を開始して僅か10分―――。
「国木田君、だっけ?」
「何だ?」
記入するため使用していたペンを置き、紬は監督者に話し掛ける。
「治とは長い付き合いなのかい?」
「は?」
試験に関する質問がくると思っていたため素っ頓狂な声をあげ、読んでいた本を閉じる。
「いや何。随分愉しそうに電話で会話をしていたからね。」
「何処を如何見たらそんな風に見えた!?先刻だって仕事をサボってフラリと姿を消したことに対して怒りこそすれど、面白愉快に会話した覚えなど無いが!」
勢いよく立ち上がって否定する姿にケラケラ笑いだす紬。
「そうだったのか。それはとんだ誤解をしてしまったね。」
「全くだ!大体何なんだ!?趣味が自殺だと!?俺の手帳には『相棒が自殺嗜癖』等と云う記載なんか無いというのに!」
頭を抱えて叫ぶ国木田を、矢張り笑いながら見ている。
「退屈はしないだろう?」
「そういう問題じゃない!何だ!?真逆、お前まで自殺趣味があるなんて云うんじゃないだろうな!?」
「ふふっ、秘密。」
「あるだろ!その返しは『ある』って言ってるよな!?」
「いやー。国木田君は元気だねー。」
「話を逸らすな!太宰みたいなのが二人だと!?耐えられん…絶対に耐えられんっ!」
「仕方ないさ。私と治は二卵性と云えど双児だからね。その辺の兄妹より類似している筈さ。」
………。
は?
「昔から容姿、性格ともに良く似ていると云われていたのだよ。」
ニッコリ笑って話す紬だが、国木田は固まったように微動だにしない。
似ていると云われていた?
確かに性別による差違以外は瓜二つだと思ったが…。
いや、待て。
今、何て云った?
似ている理由をサラリと云わなかったか?
確か…
「双子だと!?」
盛大に驚く国木田。
「おや。聞いたことなかったのかい?」
「初耳だ!」
そうだったか。と微笑んで返す紬は、矢張り国木田のよく知る『太宰』とそっくりで。
「兄妹でも厄介そうなのに双子だと!?」
「ふふふ。」
世間一般的に云えば、双子は凡る面で『似ている』と云われている。
「どうしたんだい?顔色が優れないようだけれど。」
と云うことは、だ。
「お前が入社する事を想像しただけだ。」
急に目眩に襲われた。