第1章 再会
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「兄様、変だと思いません?」
「何が?」
不思議そうな顔を浮かべながら、兄に話しかける妹のナオミ。
「紬さんは事務職を…私と同じ事務員を希望されているのですよ?」
「そういえばそう言ってたね。」
「私、筆記試験なんか受けてませんわ。」
「あ。」
ナオミに言われるまで気付かなかった谷崎兄。
それを聞いていた太宰が返答する。
「紬には調査員になってもらうのだよ。」
「え?」
「本人は希望されてないのに?」
「いま人手が足りないのは調査員の方だと説明すれば済む話だからね。」
ふふふ。と笑いながら云う太宰に、軽蔑の眼差しを送る谷崎兄妹。
「太宰さん、意地悪ですわ。」
「せめて本人の意志を確認してからの方が良いのでは……?」
二人の台詞に首を横に振る。
「「?」」
「意地が悪いのは紬の方だよ。」
苦笑しながら言う太宰。
「そうなんで「もう……」……?」
太宰は谷崎の言葉を遮る。
「否。何でもないよ」
「「?」」
何時も通りの笑顔を見せる太宰。
そして、紬が居る部屋の方向に目線を送る。
「もう離れたりしないさ……二度と、ね。」
ボソリと呟いた最後の一言を聞き取れた人間は、探偵社には居なかった。