第8章 在りし日の…
「『私の所為で組織を追われる中也』ってのも素敵だったのに」
「糞……」
先刻、太宰は中也に態と拘束をされていた理由を答えた。『一番は敦君についてだ』と。
「真逆………」
その言葉が脳裏に過る。
「って事は二番目の目的は、俺に今の最悪な選択をさせること?」
「そ」
「俺が嫌がらせをしに来たんじゃなく……実は手前こそが嫌がらせをする為に俺を待ってたって事か?」
「久しぶりの再会なんだ。このくらいの仕込みは当然だよ。」
「死なす……絶対こいつ死なす……。」
ずぅんと、完全に落ち込んでいる中也。
「おっと。倒れる前にもうひと仕事だ。鎖を壊したのは君だ。私がこのまま逃げたら君が逃亡幇助の疑いをかけられるよ?」
只ですら苛ついている中也の顔に、更に苛つきが見える。
「君が云うことを聞くなら探偵社の誰かが助けに来た風に偽装してもいい。」
「……それを信じろってのか。」
項垂れていたのを止め、立ち上がる中也。
「私はこういう取引では嘘をつかない。知ってると思うけど。」
「手前っ……」
キッと睨み付けるが
糞っ……その通りだから余計に癪に障る
再びガクッとしゃがみこむ中也。
「……望みは何だよ」
「さっき云ったよ」
「人虎がどうとかの話なら芥川が仕切ってた。奴は二階の通信保管所に記録を残してる筈だ」
中也は先程の戦闘で落ちた上着を拾い
「あ、そう。予想はついてたけどね」
「てッ………」
羽織直すと舌打ちして去っていくが
「用を済ませて消えろ」
「どうも。でもひとつ訂正。」
階段を数段上がったところで立ち止まる。
「今の私は美女と心中が夢なので君に殺されても毛ほども嬉しくない。悪いね」
にんまりしながら云う太宰を
「あ、そう……じゃ今度自殺志望の美人探しといてやるよ」
冷めた眼で見ながら言い返す中也。
「中也……君は実は良い人だったのかい?」
「早く死ねって意味だよバカヤロウ」
イラッとする返しをする太宰にいちいち反応する辺り、元相棒だからか。
「云っておくがな、太宰。これで終わると思うなよ。二度目はねえぞ」
殺意を込めて睨み付ける。
しかし、矢張り太宰の方が上手だ。
違う違う、と。
「何か忘れてない?」
笑顔で呼び掛ける太宰に、忘れていた何かを思い出す中也。