第6章 Murder on D street
「やあ敦くん、仕事中?おつかれさま。」
「ま……また入水自殺ですか?」
網に掛かっていたのは死体ではなく、生きた男性。
しかも、敦がよく見知っている人物だった。
そんな2人のやり取りを呆れ半分で見ている、慌てて駆けつけた箕浦。
「うふふ。独りで自殺なんてもう古いよ敦くん。」
「え?」
網にぶら下がったまま語りだす知り合いの男。
「前回の美人さんの件で実感したよ。矢っ張り死ぬなら心中に限る!独りこの世を去る淋しさの何と虚しいことだろう!」
熱く語る男を呆れ眼で見ながらも話を聞いている敦。
「というわけで一緒に心中してくれる美女募集。」
「え?じゃあ今日のこれは?」
「これは単に川を流れてただけ。」
「なるほど。」
どや顔で言い切る男、太宰の言葉を無理矢理納得する敦。
―――
「……という訳なのです。」
「何と!かくの如き佳麗なるご婦人が若き命を散らすとは……!」
敦に今の状況説明を受け、遺体を確認する太宰。
「何という悲劇!悲嘆で胸が破れそうだよ!どうせなら私と心中してくれれば良かったのに!」
「…。」
「……誰なんだあいつは。」
「同僚である僕にも謎だね。」
「いやー。愚兄が申し訳ないね。」
「「!」」
箕浦と乱歩がビクッとする。
真後ろに居たのは謎扱いした男にそっくりな女性。
「紬」
乱歩に名前を呼ばれて笑顔を返す。
こいつ、何の気配もしなかったぞ…!
箕浦が内心、動揺する。
そんな心すら見透かしているのか
「突然声をかけて済みません。驚かせてしまいましたね」
「………。」
箕浦は、ふふっと笑う紬に警戒心を抱いた。
「しかし安心し給えご麗人。稀代の名探偵が必ずや君の無念を晴らすだろう!ねえ乱歩さん?…ってあれ。紬?何処行ってたんだい?」
「治が川に飛び込んだ地点から歩いてきたのだよ。川の流れより遅かっただけだ。」
そうか。紬の言葉に納得して視線を乱歩に戻す。
「ところが僕は未だ依頼を受けていないのだ。名探偵いないねえ。困ったねえ。」
溜め息を付き、目に入った箕浦の隣に居た警察官を指差す。
「きみ、名前は?」
「え?じ、自分は杉本巡査です。殺された山際女史の後輩――であります。」
敬礼をし、自己紹介を述べた杉本の肩を乱歩がぽんっと叩いた