第5章 ヨコハマ ギャングスタア パラダヰス
その後ろから姿を現したのは、つい先刻見たばかりの男。
「死を惧れよ。殺しを惧れよ。死を望む者、等しく死に望まるるが故に――」
谷崎の背中に刺さっていた黒い何かが男の元に帰る。
『こいつには遭うな。遭ったら逃げろ。俺でも――奴と戦うのは御免だ。』
敦の脳裏に、国木田の言葉が反芻する。
「な――。」
「お初にお目にかかる。僕は芥川。そこな小娘と同じく卑しきポートマフィアの狗――」
芥川と名乗った男が自己紹介をする。
その間も数回咳き込んでいる。
「芥川先輩、ご自愛を――此処は私ひとりでも!」
ピシッ
樋口が芥川に主張するも、無言で樋口に平手打ちを喰らわせる。
「人虎は生け捕りとの命の筈。片っ端から撃ち殺してどうする、役立たずめ。」
「――済みません。」
「人虎……?生け捕り……?あんたたち一体」
「元より僕らの目的は貴様一人なのだ、人虎。」
「そこに転がるお仲間は――いわば貴様の巻添え。」
「僕のせいで皆が――?」
自分のせいで――。
「然り。それが貴様の業だ人虎。貴様は生きているだけで周囲の人間を損なうのだ。自分でも薄々気がついているのだろう?」
『羅生門』
芥川がそう言うと、先程谷崎に刺さっていた黒い何かが現れる。
「――!」
黒の何かが敦目掛けて向かって来、ドッと云う音と共に敦の足元の地面を抉る。
「僕の『羅生門』は悪食。凡るものを喰らう。抵抗するならば次は足だ。」
その破壊力を目の当たりにし、恐怖でその場にへたりこむ敦。
「な、何故?どうして僕が――」
そんな事ばかり考えていると耳に声が届く。
「敦くん……逃げ ろ。」
「うっ……」
谷崎と、ナオミの声だった。
皆まだ息がある……
「うああぁあぁぁあ!」
無我夢中で芥川に立ち向かう敦。
「玉砕か――詰まらぬ。」
芥川が攻撃するも其れを交わし、横を通りすぎる。
目指すは樋口の落とした銃だ。
「ほう」
その光景に感心の声を上げる。
素早く構えて芥川に向けて銃を発砲する敦。
ところが、だ。
「!?」
銃弾が通ることはなかった。
「そ んな……何故…」
その結果に
「今の動きは中々良かった。しかし所詮は愚者の蛮勇。云っただろう。僕の黒獣は悪食。凡るモノを喰らう。仮令それが『空間そのもの』であっても。」