第5章 ヨコハマ ギャングスタア パラダヰス
ドガガガガガガッ
激しい銃の乱射音が響く。
その弾は谷崎目掛けたものであったが、届くことは無かった。
「兄様……大丈…夫?」
谷崎の前に立ち塞いだのは妹のナオミ。
兄の代わりに全ての銃弾を一身に受け止めたのだ。
「ナオミッ!!」
ドサリと崩れ落ちるナオミに半狂乱になって呼び掛ける谷崎。
その光景を目の当たりにし、その場に腰を抜かす敦。
「ど、どうしよう……し、止血帯!敦くん、止血帯持ッて無い?」
完全に気が動転している谷崎。
「いや先ず傷口を洗ッて……違う。与謝野先生に診せなきゃあ……い、医務室まで運ばないと!敦くん足持ッて―――」
「そこまでです。」
周りが全く見えてなかった谷崎の頭部に樋口が銃口を突き付ける。
「貴方が戦闘要員でないことは調査済みです。健気な妹君の後を追っていただきましょうか。」
「あ?」
冷たくいい放つ樋口の方を振り返り、谷崎が怒りを露にする。
「!」
谷崎が纏うオーラに、一瞬、怯む樋口。
「チンピラ如きが―――ナオミを傷つけたね?」
谷崎がぐったりとしているナオミを抱え、立ち上がる。
異能力―――『細雪』
突然、雪が降り始める。
「雪……?こんな季節に?」
辺りを見渡しながら、季節外れの雪に戸惑う樋口。
「敦くん。」
「!」
その場からへたりこんで動かなかった敦が反応する。
「奥に避難するンだ。こいつは――ボクが殺す。」
殺意を樋口に向ける。
それに樋口も直ぐに反応し、銃の乱射を再開する。
「くっ!」
ドドドドドッ!
激しい音を経てて発砲するも、
「!?」
目の前の谷崎は血を流すことなく消えただけだった。
『ボクの『細雪』は――雪の降る空間そのものをスクリーンに変える』
「なっ……何処だ!」
『ボクの姿の上に背後の風景を『上書き』した。もうお前にボクは見えない』
姿の見えない谷崎を、キョロキョロと周囲を窺い探す樋口。
「しかし……姿は見えずとも弾は中る筈っ!」
認識できないと判り、四方八方に発砲を始める樋口。
「大外れ」
真後ろから声がし、首に手が掛かる。
「――ッ!?」
「死んで終え――!」
手指に力を込め、樋口を絞め殺しにかかる谷崎。
「くっ……あ」
苦しそうに呻く樋口。
ゴホゴホ
突然、咳き込む音が聴こえたかと思うと谷崎がその場で倒れた。