第5章 ヨコハマ ギャングスタア パラダヰス
「なんか……鬼魅の悪い処ですね。」
大通りから指差された脇道に入る。
そんな辺りを窺いながら云う敦。
暫く歩くと谷崎が疑問を抱き、それを言葉にする。
「……おかしい。本当に此処なンですか?ええと――」
着いた先は昼間と云うのに薄暗い袋小路だった。
「樋口です。」
「樋口さん。無法者というのは臆病な連中で――大抵は取引場所に逃げ道を用意しておくモノです。でも此処はホラ捕り方があっちから来たら逃げ場がない。」
自分達の来た道を指差しながら谷崎が言う。
「その通りです。失礼とは存じますが嵌めさせて頂きました。私の目的は貴方がたです。」
「「!」」
3人に緊張が走る。
「芥川先輩?予定通り捕らえました。これより処分します。」
『重畳。五分で向かう。』
「芥川……だって?」
樋口の口から出た言葉を聴き逃すことなく谷崎が拾った。
顔には驚愕の色が浮かび上がる。
「我が主の為、ここで死んで頂きます!」
「こいつ……ポートマフィア……!」
ドガガガガガガッ
樋口が両の手で銃を乱射する。
この音が開戦の合図となった―――
―――
突然、パチッと目を開ける太宰。
手には本。耳にはヘッドフォン。ソファーに横になっていたスタイルは紬達が出ていって直ぐの状態と変わらない。
「おい太宰。いい加減仕事を――」
デスクで仕事をしていた国木田がソファーに寝そべる太宰にいい放った―――心算だった。
「―――あれ?」
其所に太宰の姿はなかった。
―――
ピクリッ
敦達と別れてからそう離れていない場所で紬は立ち止まった。
「始まったか」
右耳に意識を集中させる。
髪で見えなかったが、耳には補聴器程の機械が填まっていた。
ピリリリリ……
紬の電話が、鳴る。
ピッ
「傍には居るけどどうするかい?」
最初から相手が判っているかの様……
否、最初から相手を確信して、電話に出て早々要件を述べる紬。
『私が来るまで適当に過ごしてて。』
「はいはい。」
果たして電話を掛ける必要があったのだろうか?
端からみれば何の指示にも成ってない会話で通話は終わった。
「久しぶりだねえ、彼に会うのも。」
右耳から聴こえてくる音にそぐわない様子のまま、紬は歩き出した。