第39章 復職
「ねえ中也ぁ」
死体だらけになった地下室から自分の執務室へと戻ってきた中也は紬をソファに降ろして救急箱を引っ張り出していた。
「ンだよ」
紬の方を見ずに、脚の傷を消毒しながら返事をする。
「何で来たんだい?」
「……悪ィかよ」
「えっ……否、うん。悪くはないけど………」
「手前が人の云うこと守らねえからだろうが」とか。
「そのままサボる心算だっただろうが」とか。
返ってくると思っていた言葉と違ったのだろう。
思わぬ返しに紬は何時ものように言葉を紡げなかった。
「「……。」」
手当てが終わるまで無言は続いた。
終わるとスッと立ち上がって席に着く。
「中也の……」
「あン?」
それをチラリと見てから紬は漸く言葉を発した。
「中也の手を煩わせる心算は本当に無かったんだよ」
昨日の任務後。
○○が連絡を取ったのは好敵手である××だった。
自分達で争っていた椅子に、突然現れた素性も分からない人間が易々と座るなんて耐えられなかったからだ。簡単に事の概略を説明をしたところで、××も○○と同じ考えに至ったのだろう。唯一判っている『太宰紬』と云う人間について調べ、排除する事に協力する事にした。
○○が任務から撤収、首領に報告するまでの間に××は部下を使って紬について調べさせた。
何の事は無い。情報は直ぐに手に入れることが出来た。
『ポートマフィア歴代最年少幹部』という肩書きを持つことをはじめ、真っ黒な所業の数々を容易くやってのける持ち主であったということ。
そして、組織の『裏切り者』だと云うことーーー。
『裏切り者』ーーーこの情報だけで紬を処分する理由は充分だ。
しかし、そんな『裏切り者』が堂々とポートマフィアを名乗り、中原中也を『使う』ことが出来る訳がない。
そうなると理由は1つしかなくなる。
『首領が命令したから』だろう。
部下の報告を凡て聞き終えて××は冷静に考察を始めた。
物事を深く考えずに、しかし行動力はある○○とは真逆の自分の持ち味。
そんな力業が主力の○○が、不可能だと思われた交渉を好条件で取り付けたという『幹部候補』に一歩リードを許している事も突如として頭を掠める。
如何したものかと考えること数分。
素晴らしい着想が××に舞い降りてきた。