第39章 復職
何事もなかったかのように動き出した中也に、漸く○○が反応を示した。
「っ…!お待ち下さい!中原幹部」
ピタッ
その声に応えるように動きを止めて○○を振り返る。
「俺はこの莫迦を回収に来ただけだ。何も見てねェし知らねェ。それでいいな?」
「「「「「!?」」」」」
その言葉に全員が更に固まったが、○○と××は違った。
「何故、その者の回しゅ……いえ、迎えに貴方が」
「……。」
中也は溜め息を着いて紬をその場に降ろした。
その行動に紬が眉間にシワを寄せる。
「中也」
「黙ってろ紬」
「……。」
はあ、と態とらしく息を吐いて「予定が狂うなぁ」とぼやくと、それ以上云うのを止めた。
中也も紬が口出しを止めた事を確認してから○○と××に向き直る。
「理由なんて大したことねえよ。ただ、この莫迦を回収に来たのが俺だっただけ。それだけじゃ不服かァ?」
「ええ、納得いきかねます」
そう告げる中也に、××がハッキリと告げる。
その回答にそうかよ、と返して○○を見る。
「○○は」
「私も同意見ですね。その女は裏切り者ではありませんか!」
「……。」
ピシィッ……!
「「「!?」」」
2人の答えを聞き終えた瞬間に、空気が変わった。
同時に中也の足を中心に混凝土に亀裂が入っている。
それに気づいた周りに居る黒服の男たちは、小さくヒィ、と悲鳴を上げた。
「ーーーー裏切り者、ねェ」
中也の声に、この場に居る紬以外の人間の顔色がみるみる青に変わっていく。
「そういや手前等は紬と対面したこと無いんだったなァ」
コツコツ…と中也は一人の男に近付く。
そして、
「なのに『裏切り者』だと断定して誘拐か?それ相応の理由と証拠が勿論有るんだろうなァ?」
ぐしゃり。
中也が手を伸ばした先の。
昨日、中也の元に企画書を持ってきた男が水音を立てて潰れた。
「「「「っ!?」」」」
「……。」
その光景を紬はやれやれと呟いて見ていた。
中也は止まることなく次の男の元へゆらりと移動し始める。
確実に死が迫っている状況なのに、誰も動くことが出来ないようだ。