第39章 復職
「○○。確かに時間が無いかもしれません」
「何だと?」
××の言葉に○○が反応する。
しかし、紬から云われた時よりは大人しく訊ねていた。
「彼女を拐った場所は幹部執務室の階の昇降機前です。彼女が来ないことを心配した部下達が捜索を始めているかも知れません」
「だが、話によれば仕事をサボることなんて日常茶飯事だったんだろ?」
「ええ。しかし万が一もあります」
××の言葉に「そうか」と納得する○○。
そして、持っていた銃の安全装置を外した。
「それなら貴様の願い通りにしてやるか」
引き金に指を掛ける。
その光景を見て紬は突然、悲しい顔をした。
「何だ?急に死ぬのがイヤになったか?」
「君達は犬を飼ったことあるかい?」
「「は?」」
突如として此までのやり取りとは違う質問に間の抜けた声を合わせて発する2人。
「その辺の犬の事なんか知らないし興味も無いけど私の犬は優秀でね。ほら……」
「何の話です?」
「会話で時間を伸ばす気か?!」
そうはいくか!と叫びながら○○は引き金を引いた。
フワッ
「君達がモタモタしてるから間に合ってしまった」
「「「「!?」」」」
弾丸が紬の傍に舞い降りてきた黒によって遮られた。
「誰が犬だっつーの」
現れた人物に全員が一歩以上は後退り、中には手に持っていたモノを落とすものもいた。
不機嫌そうに犬を否定した黒ーーー中原中也は全員を一瞥して紬を見やった。
「大人しく部屋に居ろっつったろーが」
「不可抗力だよ。部屋に行く前に拐われたんだもん」
「よく云うぜ、ったく。あわよくば死ぬ気だっただけだろ?」
「流石、中也!判ってるねぇ!其処まで分かってるなら来なければよかったのに」
ブーブー文句を垂れる紬にデコピンを喰らわせる。
「あいたっ!」
「手前の為じゃねぇよ。早く戻るぞ」
「はぁい」
パチンッ
「「「「「!?」」」」」
指を鳴らした瞬間、拘束していた筈の器具が音を立てて外れた。
その光景に誰も言葉が出ない。
「中也、運んで」
「ああ!?手前で歩け!」
そう云い返して、紬の足に視線を移した。
僅かに漂う、馴染みの匂い。
「……。」
中也は紬の膝裏に腕を通して、片手で担いだ。