第39章 復職
「紬君の様子を見ておいて欲しいんだよ、引き続きね」
矢張り調子が佳くないようだからねえ、と云った首領の言葉と、拝命した時の事を思い出していると脳内の首領の言葉が綺麗に重なった。
それって、つまるところ
「………紬の調子が戻るまではずっと一緒に行動するように、ということですか?」
恐る恐る問うた中也に微笑みを返す首領。
その顔が示す返答など訊かずとも判ってしまう。
『日用品といい送迎といい、何?中也は私のお世話係なの?』
そして脳内に反芻し始めたのは先程のやり取り。
「~~~っ!」
全力で否定したが彼奴の云った通りじゃねえか!
急に恥ずかしくなって顔を反らした中也だった。
そんな羞恥心で悶える中也を暫く見ていた首領だったが、何かを思い出したように「あ。」と言葉を発した。その声で、中也は顔を上げる。
「そうだ。紬君は今何処に?」
「私の執務室に居る筈ですが」
「そう」
急に真面目な顔をした首領に中也も元に戻る。
「如何かしましたか?」
「否、ね。今朝から資料室に保管していた資料を少しばかり廃棄させているんだよ」
「はあ……」
「本当は昨日のうちから始めさせる予定だったんだけど中々手が空かなくてね」
首領の発言の意味が判らずに、少し抜けた相槌を打った中也だったが、直ぐにピクリと動いた。
「………真逆、廃棄している資料って……」
「そう」
首領の言葉を聞くや否や、中也は素早く挨拶を済ませると慌てて首領室を飛び出していったのだった。
「リンタロウ」
それまで一言も発さなかったエリスが首領を見上げながら呼び掛ける。
「何だい?エリスちゃん」
「中也、急にあんなに慌てだして如何したの?」
「ふふっ。大切なお姫様の大ピンチってところかなあ」
「リンタロウの口からお姫様だなんてキモい」
「そんなぁ~酷いよ!エリスちゃん!」
そんなやり取りを一通りしてから首領は小さく息を吐いた。
「もし再び紬君が離反することがあるとするならば、それは中也君に何かあった時だろうからねえ」
「?」
そんな首領の言葉を聞いた人間は、誰も居なかった。