第39章 復職
翌日ーーー
「昨日遅くまで仕事だったって云うのに何で朝から働かなきゃいけないの」
「いや、昨日はそこそこ早かっただろうが」
本部の入り口である自動扉を潜りながら、紬が云う不満に適当に返事する中也。
「でもあれだね。車出勤っていいね!」
「人が運転してる隣で、何もせずに寝てられるからなァ」
「それそれ!」
「ちったあ運転してる俺に感謝や罪悪感持てや」
「よしよし」
「犬扱いすンな!!」
愛用の帽子の上から頭を撫でる紬に、怒鳴って応戦する。
そんなやり取りを、気になりつつも直視できない黒服達の脇を通り過ぎながら紬と中也は幹部専用の昇降機に乗り込んだ。
2人しか居ない空間。
乗る前まで騒がしかったのが嘘のように静まる。
が、直ぐに紬がその静寂を破る。
「日用品といい送迎といい、何?中也は私のお世話係なの?」
「誰が世話係だッ。監視役だっつーの」
「そう」
「やけにすんなり納得するじゃねえか」
「この状況じゃ妥当だからね。内容もさることながら人選においても」
「そうかよ………。」
『監視』などと告げられて大人しく受け入れる紬に調子を乱される中也は少し黙って、懐を漁り始めた。
そして、何かを取り出して紬に差し出す。
「ほらよ」
「うん?」
それを受け取ってジッと眺める紬。
ーーー渡されたのは黒革で作られた一双の手袋だ。
紬は黙ってその手袋を着用した。
「うふふ。久し振りに中也とお揃いかあ」
「………。少しは気が紛れンだろ」
「!」
手袋をした手を眺めて、小さく笑う。
「ーーーそうだね。………有難う」
紬の笑顔に少し驚いて、中也は目を反らして「おう」と返した。
その仕草に何か云うわけでもなく、ただ手袋を見ながら笑っている紬に視線を戻した中也は、喜んでもらえたことに安堵したのも束の間、直ぐに眉間にシワを寄せた。
思った以上にーーー弱ってンな。
そう。
『普段の太宰紬』を保てないでいるーーー。
その事実を再確認したのだった。