第39章 復職
「え?女装趣味が有るんでしょ?女性用の下着まで付けるなんて中々の……」
「はァ!?ンなわけあるか!!それは手前のだよ!」
「……え。」
そう云われて紙袋に視線を移す。
そして、ゆっくりとした手つきで再び紙袋の口を開いて中身を取り出した。
「お。あったあった。ほら、これが寝間着……って何やってンだ手前は」
紙袋の山から目的のモノを見付けた中也は紬の方を振り返る。
紬は紙袋から女性用の下着ーーーこと、ブラジャーを取り出してジーッと見ていた。
「コレ中也の趣味?」
「なわけねーだろ!下着類や私服は姐さんが全部見繕ったもんだよ!」
「そうだよね。中也にしては中々いいセンスしてるなーと」
「うるせェ!ほら、コレも持ってとっとと風呂に行け!」
「はぁい」
半ば投げつけられらようにして渡された寝間着と、下着の入った紙袋を持って紬は風呂場へと向かっていった。
パタンとリビングの扉が閉まるのを見届けて中也は長い溜め息を着いた。
そう。
中也が抱えていた紙袋。
それら凡ては着替えを始めとする紬の生活必需品だった。態々、紅葉に時間を空けてもらい、服や下着を見繕ってもらったモノ。
『ほほっ。中也が紬に着て貰いたいモノを贈答すれば佳いではないか』
『俺が見繕ったモノを紬がすんなり着るとは思えねェから………』
と言い訳する中也を笑いながら紅葉は協力してくれた。そんな中でも1つだけ中也が自ら選んだものがあるには、あるが……。
ーーー何れにせよ姐さんが選んだと云えば、彼奴の事を気にせずに着て呉れるだろう。
こう考えてしまうのは離れた兄の事を思い出させて不安定にさせないーーー云うなれば紬の為か。
はたまた此れを期に兄の事など忘れて頼ってほしいと願うーーー自分の為か。
完全に前者、後者と決めきれない自分に嘲笑しながら中也は紙袋をリビングに隣接している部屋に運んだ。