第39章 復職
先程の場所から然程離れていない場所に停めてあった高級車に中也が乗るのを見てから紬も助手席に乗り込んだ。
「何で愛車で来たんだい?」
「思いの外、購い物に時間が掛かったンだよ」
車を発進させる中也をチラリと見て、バックミラーに視線を移す。
様々な大きさの紙袋が後部座席に処狭しと座って居た。
「………また随分と購ったねえ」
「姐さんが張り切っちまってな」
「嗚呼、姐さんの御伴だったのか」
「否、独りで出掛ける心算だったが、行く間際に姐さんと遇っちまってよ」
「ふーん……!」
紬が相槌を打ったタイミングで、通信端末が着信を告げる。
「はい」
『あ、紬君?私だけど』
「態々、電話なんて如何したんです?真逆…もう次の仕事を、何て云いませんよね?」
『流石にそれはないから安心し給え』
電話の相手を悟った中也が「手前ッ、首領に何て口きいてンだ!」と小声でどやしてくるのを無視しながら紬は会話を続ける。
「殲滅でしたら滞りなく。前任者から報告があったのでは?」
『その通りだよ。『中也君が殲滅を行った』とね』
「彼が駒を貸さないと駄々捏ねましてね。丁度、血の気の多い私の犬が来たから遊ばせただけです」
「誰が手前の犬だ」
チッと舌打ちしながら。しかし、首領と紬の電話を邪魔しない程度の小声で悪態づく中也。
『そう云うわけだから本部に戻ってこなくて良いよ。中也君にもそう伝えて』
それでも首領の耳には聴こえていたのだろう。
苦笑しているのが判る声音で紬に用件を告げた。
了解の意を告げて紬が通信を切ったところで中也が話し掛ける。
「首領、何だって?」
「本部に戻ってこなくて良いって」
「そうか。じゃあ食糧品購って帰るか」
「カニ食べたい!中也、カニ缶購って!」
「安上がりだな手前は」
「一番高いヤツ買って貰うもん!」
「へーへー」
中也は近くの24時間営業のスーパーへ進路を変更したのだった。