第39章 復職
バァン!!!
突然、銃声が響き渡り硝煙の臭いが広がった。
フー……フー………
荒々しい息使いが妙に響く。
図星だった。
それを指摘された○○の怒りは限界を迎えた、それ故の行動。
銃口の先に捕らえた女は崩れ落ちるーーー筈だった。
女は……紬は立ったままだ。
姿勢を崩すことなく冷ややかな眼を○○に寄越しながら笑っていた。
「なんっ……!?」
唯一、違うものはその間に先程まで無かった「何か」が在ることだ。
○○は自身と紬の間に現れたそれを目で追った。
その先に居たのは自分もよく知っている人間……。
『羅生門』ーーー
「なっ……禍犬!?」
その「何か」の正体に○○が気づいた瞬間に、それは○○の方を「向いた」。
「止め給え、芥川君」
「!」
紬が云った瞬間に、芥川の『黒獣』はピタリと止まり、芥川の元に戻っていった。
芥川が紬の『命令』に何の抵抗なく従った事で○○の部下がざわつき始める。
「何が如何なって……!?」
程なくして撤退を命じていた全部隊が一斉に戻ってきた。
「彼のお方は…!!」
「矢張り太宰さん!?」
「真逆、あの最年少幹部の……!」
「何故、此処に!?」
等々。○○の部下以外も紬を見て騒ぎ出す。
そんな事などお構いなしに紬は知り顔を見付けて、笑顔で話し掛けた。
「あ、広津さん」
「通信を聞いてもしやと思ったが、矢張り紬君だったか」
「再会の挨拶は後にしよう。もうすぐ制圧が完了する。早急に此方の被害の確認と撤収、あと彼方さんの武器を数点確保しておいてくれないかい?」
「承知しました」
そう云うと広津は黒服に指示を出し、行動に移った。
「樋口君。君も指揮を執る立場だろう?行き給え」
「へっ!?あ、はい!」
何故か逆らえる雰囲気ではないことを悟った樋口も部下を引き連れて動き出す。
「紬さん。僕は」
「君は待機。彼との『約束』を破る心算はないんでしょ」
「……。」
何故、それを。
聞くだけ無駄な疑問を一瞬抱いたが、芥川は一礼すると少し離れた位置に待機した。
紬の隣にヒラリと『黒』が舞い戻ってきたのはそれから僅か数分経った頃だった。