第39章 復職
「それ、貸して」
紬はそう云うと手を差し出した。
苛々していた○○だが、ふと思った。
通信端末を渡したところで誰もこの女の事等知らないのだから指示に従うわけがない、と。
○○は冷静さを取り戻し、ニヤッと笑いながら紬に通信機を渡した。
否、渡そうとした。
「何だい、勿体振って」
「貴様がどの立場から偉そうに物云ってるのか知らないが、俺は貴様など知らん。通信機を渡すのはいいが殲滅のための兵を貴様に貸す気はない」
「……。」
紬は○○を見ている。
周りの男達は未だに紬に銃口を向けたままだ。
キキッ……
その時、紬の耳が『ある音』を拾った。
紬はニコッと笑って縦に首を振る。
「それならば状況報告だけ聞いて全員に撤退を伝えよう。だから貸し給え」
「!?」
何でもないかのように云った紬に驚きながら、男は見下した眼を寄越しながら紬に通信機を投げ渡した。
それを装着すると紬は少しの間、聴こえてくる音声に耳を済ませているようだった。
そんな紬を指して、○○は部下達に指示を出す。
約束を違えるような事を云った時点で殺せ
その指示に部下達は全員頷いた。
そして、紬が口を開くのをジッと見る。
「全員、一旦引き給え」
「「「「!」」」」
確かにそう告げた紬に唖然としながらも、部下達は引き金に掛けていた指を外した。
応答を聞いて、反応がない人間に更に話し掛ける。
「聴こえていたかい?芥川君。一旦戻ってくるんだ。早くし給えよ。こんなことで時間など使いたくないのだから」
芥川を知っている、だと?
己の通信機を渡したせいで何も聴こえなくなった○○は近くの部下に芥川の返事を聞いた。
『承知』と。
あの禍犬がアッサリと指示にしたがった事に驚く。
「各自、撤退しながら自分の持ち場の状況報告」
そう指示すると、直ぐに班毎の報告が簡潔に返ってきた。
それを聞いている時だった。
ジャリッ……
「「「「!?」」」」
突如、背後から現れた人の気配に、全員の銃口が紬から其方に移る。
「!?」
しかし、現れたその人物の顔を見て、○○は一気に慌てふためいた。