第39章 復職
午後10時前ーーー
辺りが静まり返る月が綺麗な夜。
この場だけは世界から切り離され、緊張感の海に沈んでいるのではないかと錯覚するほどの圧迫感を感じながら黒服の男達は立っていた。
そんな中、全く動じてないのか。
堂々と立ち、手に持っていた書類を見ながら耳に手を当てる人物が1人ーーー
「いいか。打ち合わせた通りだ。各陣、時間が来次第速やかに遂行せよーー」
男がヘッドフォン式の通信機に向かってそう云うと、暫くしてから『了解』の返事が返ってくる。
その返事を聞いて○○はニヤリと笑みを浮かべた。
「○○幹部……いよいよですね」
「嗚呼。やっとだ。××を出し抜けるだけでなく、ポートマフィアの実権を握る好機に更に近付けたのだ」
○○に話し掛けたのは、中也の元に書類を持ってきた黒服だった。
その他にも10名ほどの黒服が武装し、○○を囲んでいる。
「しかし、かなりの規模の殲滅ですし異能力者も居るって話です。最後まで気が抜けませんね」
「フン。此方とて前線には黒蜥蜴を配置しているし、『禍犬』だって来ている。任務にしくじる事は無いだろう。苦戦して相討ちになろうと俺には関係ない」
「流石でございます」
黒服は一斉に○○を崇めた。
そう。
○○の周りに居るこの黒服達は、○○の直属の部下しか居なかった。
「………そろそろだな」
5……4……3……2……1……
腕時計を見ながらカウントダウンを行う。
「殺れ」
同時に轟音が鳴り響いた。
「なっ……!?」
「……。」
聞かされていたものよりも遥かに大きい爆撃。
そして、聞かされていた数の倍では済まないほど現れた敵の数に、黒蜥蜴の指揮者は絶句した。
その隣でコホコホ、と小さく咳をした男の顔も流石に歪む。
「何ですか!?あの敵の数は!聞いていませんよ!?」
「……彼の者では見抜けなかったのだろうな」
前線に出ている部下達にも、少しの混乱が生じている事に樋口も戸惑った。
樋口と隣にいた芥川の任された仕事は武器庫の襲撃だった。
前線に出て功績を上げられたら困ると思われる連中を意図的に外してある、といったところか。
最初の爆撃を完遂し、後は始まった戦争を樋口達は少し離れた位置で見ているようにという指示だった。