第39章 復職
紬は小さく息を吐いた。
先刻と違って、中也が『凡てを悟った』事に気付いたのだ。
「日中は中也の仕事の補佐を、夜は殲滅案件の指揮だよ」
紬の答えを訊くと中也は盛大に舌打ちした。
怒りを『仕向けた犯人にか』、
それとも『判っていて大人しく乗った人物か』ーーー。
「これで最期だ、紬」
再び胸ぐらを掴み、鼻先が触れるか触れないかの至近距離で怒気を孕んだ声音で云い放つ。
「このまま任務を遂行すれば、もう二度と引き返せねェぞ」
「……。」
中也の言葉に目を伏せる。
そう。
凡ては首領である森に仕組まれた事ーーー。
噂されている幹部候補も「太宰紬」の事を全く知らない人物ならば誰でも良かったのだろう。
偶々、最低条件に合う○○幹部とやらが、紬が得意とする任務を全う出来ずに居たから首領によって利用されただけだ。
否、何時まで経っても成果を挙げられない『名ばかり幹部』を粛清したかっただけかもしれない。
紬が○○幹部の任務を変わりに全うすれば○○は激昂するだろう。
紬の事を知らないその者は恐らく、紬を殺そうとする筈だ。
しかし、紬は『絶対』死なない確信が森にはある。
紬の異能も勿論、その理由の1つだがーーー
何はともあれ、餌をぶら下げて食い付いてきた棄て駒を利用して紬の手を悪に染めさせる。
「太宰紬が二度と離反出来ないようにする為に」ーーー
紬は中也の背に腕を回して、額をコツリと合わせた。
「有難う中也ーーーでも本当に……決めたから」
「……。」
何時も通りの笑みを浮かべている紬。
しかし、中也は判っているのだろう。
胸元の手を外して頭に伸ばし、紬の頭部を引き寄せて抱き込んだ。
「本当……莫迦な兄妹だ、手前等は」
中也が頭を優しく撫でると、紬の肩が小さく震え始めた。
小さく聴こえる嗚咽が止むまで中也は手を止めなかった。