第39章 復職
「で?」
「うん?」
立ったついでか、部屋に備えてあるお茶セットで勝手に紅茶を淹れている紬に話し掛ける。
「………手前が真面目に働くとは思えねェ」
「ああ、その事」
カチャリ、と中也の前に紅茶を差し出して紬もソファに戻る。
律儀に中也の分も用意するところが兄とは大違いだな、と心の中で呟きながらその紅茶に口を付けつつ紬を見る。
「『復職』が掛かってるからねぇ。手を抜く訳にはいかないよ」
「判ってンのか?このまま任務を遂行すれば……」
「もう二度と引き返せないって?」
「……。」
紅茶をテーブルにおいて、鼻で笑う紬。
「そんな事、中也に云われなくても判ってる」
小声で紡がれた言葉。
その表情をみて中也は盛大に溜め息を着いた。
「今なら未だ間に合うぜ?」
「………いいったらいいもん」
「はあ……。本当に莫迦だなァ………手前も太宰も」
子供が拗ねた様な顔をして云った紬に、心底呆れたと云わんばかりの顔で中也は告げた。
「それで?初仕事はなんだったんだよ」
「商談だよ。私が態々行う必要があったのかすら怪しい程度の」
「……。」
矢っ張りか、と中也は先刻の部下の報告を思い出しながら呟いた。
「何だい?急に黙って」
「いや、何でもねえ。それより手前は聞いたか?」
「何を?」
「明日『五大幹部』の席に誰かが座るんだと」
「へぇ」
興味のない返事をして紬は紅茶を再び手にする。
「一枚噛んでるんじゃねぇだろーな?」
「冗談。そんな事して私に何のメリットがあるって云うんだい?」
「思い付かねぇから直接訊いてンだよ」
「………中也らしい考えだ」
「あ"!?テメッ、いま莫迦にしただろ!?」
「『脳筋なだけあって正直だなー』って誉めたんだよ」
「よーし、一寸面貸せや」
「あーあ。女性に暴力なんて五大幹部の風上にも置けないねぇーあ、姐さんに相談しよう!」
「~~~っ!」
口で勝てずに二の句を継げない中也をニヤニヤと笑いながら見る紬。
今も昔も全く変わらないやり取り。
怒りは勿論こみ上げてきたが、何処か懐かしいと思った中也は息と共に怒気を吐き出してしまった。