第39章 復職
更に部下は少しの興奮を交えて続ける。
「しかも!此方が有益になる条件を追加した上で取引を了承してきたそうなんです!」
其処まで聞いて中也は改めて書類に目を移した。
「……。」
部下は中也の行動などお構い無しに更に続ける。
「噂では明日『五大幹部』の席に誰かが着任すると」
「合点がいった。○○がその席に座るっつー噂が流れてんのか」
「いえ、未だ××幹部の方が候補としては有力なのではと」
「……それで妙にざわついてンのか」
「はい。○○幹部としても首領自ら下されたこの任務に成功すれば、という気持ちがあられるようで、拝命して直ぐに相手の規模や下見等、総力をあげて調べあげ、その企画書を作成した次第です」
「話は判った」
中也は普段から愛用しているペンをとり、サインをした。
「首領直々っつーのを俺に推すって事は口を挟む必要はねェ………否『余計な口を挟むな』ってことだろ?」
「!?」
中也は書類を部下に差し出す。
この部下は○○から不備があったとしても助言を受けてくるな、とキツく云われていた。
五大幹部である中也が介入すれば功績はどうしても霞んでしまうーーー
図星だった部下は、一瞬だけ反応が遅れたものの書類を受け取った。
そして、一礼すると扉の方へ足早に移動する。
「……なァ」
「!」
そんな部下に向かって中也は机に肘を付いた姿勢で話し掛ける。
ビクッと肩を上げて、ゆっくりと振り向く部下。そして見た中也の顔が怒りや咎める表情では無いことに一先ず安心する。
「……何でしょうか?」
「手前は理由なく自分の不利益になることを選ぶか?」
「……え?」
カタッ……
何の事だろうかと疑問を浮かべ立ち止まる部下に中也は小さく息を吐く。
「いや、いい。引き留めて悪かったな」
「い、いえっ」
失礼します、と慌てて出ていく部下を見送ってから、自身の後方から小さく聴こえた物音の方に視線を移す。
音がしたのは中也の仕事机の斜め後方の扉ーーー
仮眠用の小さな部屋がある扉からだった。
中也の執務室内にある、中也専用の仮眠室。
中也が許可を出さない限り、誰も使用しない部屋だ。
許可したところで畏れ多くて、部下は全員、共同の仮眠室に行くのだが。
「……。」
そんな部屋からの物音に然程、警戒するわけでもなく扉を見ていると、直ぐに開いた。