第38章 悲劇なる日曜日
ポートマフィア首領室ーーー
「失礼します。首領、連れて参りました」
常に出入り口に見張りが立っている程の厳重な、
誰もが気軽に入室できないその部屋に紬は中也の後について足を踏み入れた。
「ああ、ご苦労だったね中也君」
扱っていた書類を机において笑みを浮かべながら労ったのはポートマフィア首領、森鴎外その人だ。
「早速で悪いんだけど、少し席を外して貰えるかな?」
「……は」
中也は短い言葉と共に敬礼すると、命に背くことなくその部屋から出ていった。
そんな中也を振り返って見送ると紬は森に向き直った。
「中也に聞かれたくない話でもするお心算です?」
「ふふっ。君と私で秘密の取引をしているみたいで雰囲気あるでしょ」
「……悪趣味」
あからさまに嫌そうな顔をする紬。その様子に鷗外は顔を歪めたりはしなかった。
「ーーー意志は固いようだね」
「……。」
紬は目を伏せる。
暫く考えて、目と口を同時に開いた。
「『本来、森さんが望んでいた状態に戻る』ーーーただ、それだけです」
「………そう」
森は苦笑した。
そして、紬達が入室した際に扱っていた書類を差し出す。
その書類を受け取って数十秒眺めると、
再びあからさまに嫌そうな顔をした。
「うわっ、最悪……」
「紬君の『復帰』の舞台だからね」
「私は下級構成員が希望だったのに」
「そうかい?折角得た優秀な人材をもて余したりしないから任務は与えるよ?そうなれば結果はそう変わらない」
「逃がす気無いですね」
「勿論ーーー二度と、ね」
ニッコリ笑って云った森の言葉に、深く溜め息を着いた。
そして、
「拝命致しますーーーー『首領』」
スッと腰を折って告げた紬に
森は笑顔で「期待しているよ」と頷いたのだった。