第38章 悲劇なる日曜日
探偵社を後にして紬は直ぐに裏路地を歩き出した。
細い道を歩いて、曲がって。
暫く歩いていくと道が開けた。
相変わらず、人通りの無い路地。
ーーーしかし、車が通行できる程の広さを有していた。
紬の行き先を阻むように黒塗りのクルマが一台停車している。
「……。」
紬は小さく息を吐くと躊躇なくその車の助手席に乗り込んだ。
紬がシートベルトを着用するのを確認して、運転手は車を発進させた。
「幹部様とあろう者が送迎係なんて人手不足なのかい?」
「首領からの命令だ。『丁重に持て成せ』ってな」
「そう。相変わらずだねぇ森さんも……」
紬は溜め息をついてそう吐くと、運転手に視線を移した。
「中也も、ね」
「五月蝿ェ。首領の命令じゃなきけりゃあ俺は来てねェっつーの」
「どうだか」
クスクス笑いながら視線を窓の外に移す。
そんな紬をチラリと一瞥して、今度は運転手ーーー中原中也が長い溜め息を着いた。
「ンで?」
「『マフィアに戻る理由』かい?」
「違ェ」
「だったら何?」
「俺の考えすら推測できねェ程、余裕が無ェ面してる理由だよ」
「……。」
紬は窓の外に視線を戻す。
「………消されていた私達の罪が明るみになる」
「!」
「正確には『私達の犯罪の証拠を消し去っていた異能が解除されてしまう』……否、されてしまった、の方が正しいかな」
「……。」
ポートマフィアを離反した際に『異能特務課』によって消去されていたモノが復活したーーー。
そうなれば、だ。
太宰兄妹は武装探偵社どころか『表の世界』には居られる存在ではない。
中也は紬が今、自分の隣に居る理由を瞬時に弾き出した。
ーーーしかし、それには1つだけ疑問が残る。
「……青鯖は如何した」
「さあ?人気の多い何処かを彷徨いてるんじゃない?」
「手前ェが此処に居るのを知ってンのか?」
「さあ?今は私の事なんて考える余裕が無い筈だからねえ」
矢っ張り、彼奴に無断で動いてやがるな……。
中也は舌打ちをする。
それからは目的地に到着するまで一言も話さなかった。