第38章 悲劇なる日曜日
何を云いたいのか悟った福沢が口を開く。
「紬も反対か」
「ええ」
「乱歩と同じ理由か?」
「いいえ。私の理由はもっと単純です」
「それは」
「云う必要は無いかと」
「……。」
「それにーー………」
何かを続けようとして、止めた。
紬はニコッと笑って、再び口を開く。
そして外套の内ポケットをごそごそと漁り、何かを取り出し、福沢に差し出した。
「私は社の方針に合わないようです」
「!」
「「「「!?」」」」
『辞表』ーーー
丁寧な時でそう書かれた紙を福沢に渡すと紬はニッコリと笑って一礼した。
「短い間でしたがお世話になりました。では私は此れで失礼しますね」
「…っ!?待て!紬!!」
乱歩に続いたようにして扉へと歩き出した紬を、先程と同様に引き留めようとする国木田。
「!国木田、止せ!」
「!?」
歩みを止めない紬の纏う雰囲気に気付いたのか、福沢が慌てて制止する。
乱歩の時とは違う声音に国木田もビクリと身体を震えさせた。
「うふふ。流石、社長」
扉を開けながらクスクス笑う紬はーーー全く笑っていなかった。
ゾッとする様なその笑みは、賢治以外の人間の顔色を変える程のモノーーー
触れていれば『何か』をする心算だったのだろう、と誰もが想像できた。
パタン……。
先程と違って静かに閉じられた筈なのに。
その扉の音は、静まりかえった部屋に大きく響き渡った。