第38章 悲劇なる日曜日
「『不楽本座』ーーー矢張りね」
「……。」
敦達のやり取りをよそに、紬はポツリと呟いた。
その言葉を隣に居た乱歩だけ聞き取り、一瞥するが直ぐに敦達の方に戻す。
深く聞かずとも、先日のやり取りで紬の意思など既に判っているからだ。
「じゃあ殺人は……もう一件起きる!?」
「起きぬ」
敦の言葉を力強く否定したのは社長だった。
「何故なら我々が阻止するからだ。一同全力を挙げ凶賊の企みを阻止せよ」
「反対だね」
そして、社長の指示を力強く反対したのは乱歩だ。
その言葉に福沢が驚く。
「乱歩……理由は」
「友人の最後の言葉」
『もうじき探偵社に大きな仕事が来るが絶対に受けるな!受ければ探偵社は滅ぶ!』
乱歩は小栗の言葉を疑わなかった。
「この仕事は断る」
「「「「………。」」」」
そうはっきりと云う。
乱歩と紬を除く者は言葉がでない様子だった。
紬は2人の様子を眺めている、だけだ。
「乱歩。社長室の祓魔梓弓章はみたか。我々民護のものものにとって百年に一度の名誉だ」
「弓を貰ったから仕事を受けろと?」
「否。あれはな唯の木片だ」
名誉ある章を『唯の木片』扱いした社長の言葉に各々驚きを示す。
「勲章も賞賛も我らには細かき霧雨に同じ。仮令 我等が栄誉無き地下のコソ泥でもこの殺人を止める為に命を懸ける」
社長の言葉に乱歩は顔をしかめる。
「なら勝手にすればいい!」
そして、素早く立ち上がると乱暴に扉を閉めて出ていってしまった。
「乱歩さん!」
「追うな国木田」
慌てて追い掛けようとする国木田を制止する。
「探偵社は殺人犯を追う。そして乱歩は「探偵社滅亡」の真相を追う。同時調査……それが最適と乱歩も判っている」
その言葉で国木田は元の位置に戻った。
そして、会議が再開されるかと思われた時、スッと立ち上がったのは紬だった。
「?何処に行く気だ、紬。会議を続け……」
国木田の言葉を無視して社長を見つめている紬。
纏っている空気が変わったことに気付いたのか。
国木田は言葉を途中で切った。