第36章 回向 其の弐・参
『太宰さん!国籍不明の戦闘ヘリが東から接近中!若しこれに乗って脱出されたらボク達の装備では追い切れません!』
「ヘリ………………奴の思考…………とすると」
眉間に皺を寄せて、思考を巡らせる。
『直ぐ軍警に応援要請しましょう!軍用機で追跡を……』
「谷崎君。今 地上に人影は?」
『え?今ですか?いえ 特に…』
『いえ 一人…麓近くに登山客らしき人が』
賢治が捕らえた人影を報告する。
『遮光帽子で顔は見えませんけど西方向にのんびり散歩を』
「それだ」
『え?』
「全員でその登山客を拘束。森さんの兵も動かせ。大至急だ」
『は…はい!』
その指示通り、兵が登山客の元へ向かった。
しかし……
『太宰さん!違います!登山客は喉を潰され手枷を嵌められています!ドストエフスキーではありません!』
太宰は驚愕した。
しかし、直ぐに思考を巡らせる。
此処までの推測に間違いなどない。
と、すればだ。
残る可能性はもう1つしか――――
次の考えを巡らせていると、外套のポケットが震えた。
このタイミングでの着信など、一人しか考えられない。
「もしもし?」
『捕らえた―――特務課に連絡して』
「!」
通話部分から発せられるのは自分と同じ声。
「直ぐに手配する」
太宰は安堵の息を漏らした。