第36章 回向 其の弐・参
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移動するトラックの中。
太宰は先刻まで紬が使用していたノート型のパソコン画面に向かって次の通信を始めていた。
「谷崎君。廃坑周辺から逃走する人影は?」
『太宰さんの云う通り上空から見張ッてますが誰も……』
通信相手―――谷崎ははヘリを操作しながら答えた。
「街は探偵社とマフィアが目を光らせている。だから奴はこの潜窟に篭もる他ない。夏目先生が造った黄金の好機 潰す訳にはいかないよ」
『! 太宰さん!』
そう話す太宰の言葉が終わった瞬間に谷崎が何かを捕らえる。
『廃坑北部から車が出てきました!』
『一台じゃありません。二台…三台も!』
そのヘリに同乗して辺りを見張っていた賢治もそれに気づく。
『きっと逃走用の車両です。今直ぐ地上に連絡して追跡を』
二人の通信を聞いて、少し考える。
そして云った。
「無視だ」
『え!?』
流石の谷崎も驚く。
「私達の手製を削ぐ囮だ」
『でも本物かも…囮と断じる根拠は何です?』
「私ならそうするから」
太宰はハッキリと。
答えになっているかは怪しい答えを述べる。
『……判りました。では引き続き監視を』
『廃坑の西側から幌車が来ました!今度こそ』
「……否 違う。それも無視だ」
『!南東側から数名の武装兵が脱出移動中!頭巾の人物を護送してます!』
「無視だ」
『ですが……』
「あの魔人の捕縛だ。手勢は一人も無駄に出来ない。無視だ」
太宰の言葉に谷崎と賢治は再び監視を始める。