第4章 或る爆弾
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「そう云えば、昨日の女性はどうしたんだ?」
国木田は隣を歩く紬に話し掛ける。
「説得したさ。金輪際、あの様に人様に迷惑を掛ける行為をしないと誓ったので治と共に家まで送っていったよ」
「そうか。しかし、キツく御灸を据えたって太宰も云っていたにも拘らず、舌の根も乾かぬ内に犯行に及んだんだぞ?」
「うふふ、国木田君は心配性だねえ。」
「騒ぎに巻き込まれたくないんだよ!」
胃を押さえながら必死に訴える国木田。
「心配要らないさ。今回、御灸を据えたのは私の方だからね。」
「は?」
何が違うのか。
当然の疑問が頭によぎる。
それを正確に汲み取ったのか、満面な笑みで紬は云った。
「私は優しくないから」
「……。」
そんなことはない筈だ。と否定しようとしたが止めた。
太宰が女性に優しいことは知っている。
『それに比べれば』同性の紬が『優しくない』と云うのも納得がいくものであったからだ。
間違っては、ない……筈だ。
「手筈通りだね。」
「!」
そんな考え事をしていると紬が急に本題に入る。
紬の視線の先を国木田も追う。
「ここからだな。」
「うふふ、そうだね。」
目の前に見えた二人組の姿を捉えると、国木田は大きく息を吸い、吐いて、吸った。
「ここに居ったかァ!この包帯無駄遣い装置!」
太宰を指差しながら怒鳴る国木田。
演技とは思えない気迫さに隣の紬はクスクス笑っている。
「……国木田君。今の呼称はどうかと思う」
「……。」
ちょっと傷ついたらしい太宰が落ち込んで話す。その隣に紬が歩み寄り、頭を撫でた。
「この非常事態に何をとろとろ歩いて居るのだ!疾く来い!」
「朝から元気だなあ。あんまり怒鳴ると悪い体内物質が分泌されてそのうち痔に罹るよ」
「何 本当か!?」
「メモしておくといい」
太宰の言葉を手帳にメモし始める国木田。
嘘だけどね、と本当を告げた太宰に怒りを覚え、首を締め上げる。
「おはよう敦くん。」
「あ、おはようございます。」
巫山戯たやり取りをよそに、紬が敦に話し掛ける。
「新しい下宿寮はどうだい?善く眠れた?」
「!」
朝から電話口で太宰が訊ねた事と一言一句、違わない質問。