第4章 或る爆弾
「………質問に答えろ、雌豚……」
眼が完全にいっている。
「随分な口の悪さだ。治はこんな女性が好みだったのかい?妹の私としては応援しがたいけど」
「私の好みなど片割れの紬なら完璧に把握しているだろう?」
はあーっと溜め息をつく太宰。
「片割れ…?実妹……?」
その単語にピクリと反応する女性。その言葉の真意を確かめるように紬をじっとりした眼で見つめる。
見れば見るほど似ていることに気付くだろう。
そして顔を歪める。
「本当に妹……」
「本当に妹だよ。同じ母体から同じ日、同じタイミングで生まれた、治の片割れ。故に……」
うふふと笑いながら答えたと思ったら、急に鋭い眼で女性を射抜く。
「!?」
ビクッと、怯える女性。
「治と共にあるのは私だけだと決まっているのだよ。」
先程までの女性らしい高い声は何処に行ったのだろうか。
ワントーン落として女性に言い放つその声は女性の思い人とほぼ一緒のモノ。
「諦めてくれないかい?」
直ぐに何時も通りの声、笑顔で説得する。
「っ!誰がっ……!」
女性が何かを取り出す。
1つだけ釦が付いた四角い機械…起爆スイッチだろうか。
「やれやれ。本当に面倒な娘に懐つかれたねえ」
「流石の私も参っているよ」
紬は溜め息をついて太宰の目の前の爆弾に手を伸ばして、触れる。
「高くつくよ?治」
「きっちり払うさ、身体でね」
太宰の言葉に女性の顔が真っ赤になる。
恥ずかしさか、怒りか。
「っ!?」
ピッ!
後者だったらしい。女性が釦を押した。
「「……。」」
「!?」
シーン……。
「な、なんっ……!」
慌てて釦を連打する。
「今回は本物だったのだね。危なかったよ」
「おや。この店、お気に入りだったのかい?」
「うふふ、そうなのだよ。探偵社からも近いしね。」
自分達の身の危険より店の事を心配している太宰兄妹。
そんな暖気な会話に女性がキッと紬を睨み付ける。
「残念だったね。結構、良い出来の爆弾だったようだが二度と動きはしないさ。」
「!」
カタンと立ち上がりながら告げ、
「っ!離して!」
女の手を取る。
「一寸、話し合おうか。女同士で」
静かにそう告げた紬の顔は
「!」
眼が一切笑っていなかった――。