第1章 再会
「一寸、失礼する。」
「はい。」
素早く離席して電話を取り出す。
掛ける相手は勿論、太宰だ。
『あ、もしもし国木田君ー?』
「どこほっつき歩いている!?この自殺マニアが!!」
何時も通りの暖気な口調に苛立つ。
『そんなに怒らなくても今、谷崎君と社に戻っている処だとも。』
「……まあいい。ところで太宰、紬って知り合いの女は居るか?」
肝心なことは凡て伏せる。
万が一、恨みごとだった場合が危険だからだ。
『……え。今なんて?』
「だから紬って女の知り合…――」
ブチッ
ツー…ツー…ツーッ…
「切りやがった。矢張り、怨み事だったか?」
アイツの事だ。沢山の女を泣かせてきているに違いない。
……羨ましくないぞ、決して。
国木田は席に戻る。
「忙しそうですね。」
「えっ……ああ。」
激しく動揺する。
電話の先が「太宰」だと知られたくは、ない。
「それだけ忙しそうなのに求人を募集していないとは。余程、みなさん優秀とみえる。」
「まあ。それほど厳しい審査を受けてますから。」
「その審査を受ければ私も入れるかい?」
「!」
口調が変わる。
それは、先程の電話の相手を激しく彷彿とさせた。
「如何かしたかい?」
「いや……真逆、本当に太宰の……」
バンッ!
事務所の扉が勢いよく開き、
「!」
国木田の注意が其方にずれる。
入ってきた人物は肩で息をしていた。
らしくもない。走って戻ってきたのだろう。
目的の人物を探すように事務所を見る。
唸った黒髪に、
身体に包帯を巻いていて、
「っ!」
砂色のコートを羽織っている、
趣味が『自殺』なんていう危険人物は
「おや。流石は武装探偵社。もう見付けてくれたのか」
ズカズカと国木田達に歩み寄って、言った。
「紬……。」
「久し振りだね、治。」
名前を呼び合う二人。
そっくりだ。
気づかなかったのが不思議な程、そっくりではないか。
再会を果たした二人を見比べて、国木田は思った。