第35章 回向 其の壱
場面代わって敵潜窟―――炭坑跡
「おい待て芥川!」
敦は先行する芥川を追い掛けながら話し掛ける。
「太宰さんが組んで動けと云ってたろ!」
「失せよ。貴様など不要」
「……。」
敦の方を向くことなく芥川は言葉を紡ぐ。
芥川は矢っ張りこの調子だ……太宰さんは何故僕と芥川を組ませたんだ?芥川だけで十分…
そんなことを考えている敦のことなど構わずに芥川は続ける。
「僕の優質を太宰さんたちに証す四年越しの好機。僕にしてみれば貴様など寧ろ早々に潰れた方が…」
そう云って、何かに気づいた。
芥川の言葉が、動作が止まった。
そして
「?おい芥…」
ゴッ!
「!?」
咄嗟に避ける敦。
向かってきたのは芥川の異能だ。
「我ながら魯鈍の極みだ。貴様を刻み捨て『人虎は敵に阻まれ消えた』と報告すれば善い」
「……!」
「それだけで憎い貴様を葬り 且つ 僕の優質を太宰さんたちに証せる」
避けた拍子に体勢を崩して座り込む姿勢をとっている敦に殺意を向ける芥川。
「…お前がその気なら相手になってやる。でも今闘えば船上決戦の時みたいに大騒ぎになるぞ。標的に逃げられる…それでもやるか?」
「……」
敦が口で反撃に出る。
「何時もそうだった。お前は目の前の敵を刻む事しか頭にない。太宰さん達がお前を捨てて消えるのも当然だ…!」
この一言が芥川の様子を変えた。
触れてはいけない部分に触れてしまった。
これは…死ぬな僕
絶対殺される
敦はやってしまった、と。反省して眉間に皺を寄せて覚悟をする。
しかし、だ。
「……あぁ…」
芥川は急に静まり、身を翻した。
…あれ?今の表情は………
その際に見せた芥川の顔に浮かぶのは憎悪などの感情ではなかった。
「お前も何か何時もと調子が変だな」
「僕は何時も通りだ。貴様の中の誰かと括ったりするな」
「あ、そう……まあ、それならお前は良いけど紬さんは大丈夫かな」
敦が呟くと芥川が振り返る。
「貴様、何を云っている?紬さんは貴様などに心配されずとも問題ない」
「いや、何時もと様子が違うだろう?」
「……。」
敦の言葉に芥川は一瞬黙る。