第35章 回向 其の壱
「「……。」」
『何時も』とは『違う』様子の紬に敦が。
『以前』の紬と『同じ』様子の紬に芥川が。
違うことを思えど同じ表情で紬を見た。
そんなことお構いなしに紬が説明を続ける。
「最優先の捕縛目標はウイルス異能者。奴の異能を無効化しなければ社長達が死ぬからね。第二に頭目のドストエフスキーだ」
何時もより低い声ではあるが、先刻ほどのモノでは無いことに敦は少し安堵した。
そして、今の指示に抱いた疑念を口にする。
「そんな重要な作戦なら尚更…第一、芥川の僕への憎悪は尋常じゃありません!作戦が成立する訳が」
「「だそうだけど如何だい?」」
敦の言葉を兄妹揃って遮り、芥川の方を向く。
「作戦を遂行します」
芥川の纏う空気が一瞬で変わった。
……!なんだこの集中力…!?
敦も一瞬でその事を悟る。
「私達の直轄麾下は四年振りだねぇ」
太宰がフッと笑う。
「少しは出来る様になった処を見せて貰おうかな」
「はい」
そして、紬が続けた言葉に芥川は躊躇わずに返事をした。
その返事に戸惑ったのは敦だった。
「あ…芥川?お前 芥川だよな?」
「あぁ」
「僕と協力して闘う気か?」
「あぁ」
「昨日の晩飯何だった?」
「あぁ」
敦は複雑な心境を隠せない顔で芥川を見るしか出来なかった。